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躍動するアスリートの肉体と息づかいが、より身近に感じられる今年の夏。この機会をとらえ、スポーツにまつわるリアルな人間の物語を活字で堪能したい。日本の作家によるノンフィクションの好著を専門家らに選んでもらった。

1位 敗れざる者たち(沢木耕太郎)


670ポイント 「燃え尽きたい」 勝負師の姿追う

才能に恵まれ、燃え尽きたいと望み続けても、それを果たせぬままのボクサー。プロ野球界の英雄、長嶋茂雄の陰に隠れた2人の三塁手。東京五輪のマラソンで銅メダルを獲得するも、自ら命を絶った円谷(つぶらや)幸吉の遺書。日本ダービーに挑む平凡な血統の競走馬。2000本安打を記録した天才打者でありながら、なぜか「昏(くら)い光」を放つ榎本喜八。そして、ボクシングの世界タイトル奪還に臨む輪島功一の執念。

この短編集はノンフィクション作家、沢木耕太郎の原点であり、スポーツの世界を描く後の作品群の方向性を決めた。沢木は全6編を、「勝負の世界に何かを賭け、喪(うしな)っていった者たち」という主題に貫かれた一つの長編として読まれたい、と記す。

単行本は1976年発刊。「クレイになれなかった男」に登場するカシアス内藤への取材はその後も続き、81年の作品「一瞬の夏」に結晶する。ここに沢木は、取材対象に積極的に関わり合う「私ノンフィクション」の手法を確立した。そうした経緯もあり、本書は「スポーツライティングの新たな地平を開いた画期的な1冊」(河野通和さん)、「日本のスポーツノンフィクションの方向性を大きく変えた」(佐藤次郎さん)と高く評価される。

悲哀や苦悩を抱える主人公たち。分厚い取材を反映した文章には「ノンフィクションを超える熱がある」(藤村結香さん)。沢木の視点は常に勝者と敗者に向けられる、と説く青島健太さんは「敗者の生き方に感傷的にならず、たくましさを描く」筆致に共感する。

(1)出版社 文芸春秋(2)刊行年 2021年(文庫新装版)(3)税込み価格 770円 ★

2位 木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか(増田俊也)


550ポイント 取材執筆18年 武道家の評伝

「木村の前に木村なく、木村の後に木村なし」。戦前から戦後の15年間不敗のまま引退した無双(むそう)の柔道家でありながら、プロ柔道、プロレスへの転身を境に不遇に陥り、力道山との謎多き試合に敗れて以降、世間より忘れ去られた木村政彦。その生涯を描いた長編は、伝説の男を「歴史の闇の奥から復権させた」(河野さん)。競技の分野を越えた壮大な昭和史ともいえる、と山本寿子さんは指摘する。

取材執筆に18年かけ2011年に単行本発刊。ハングリーな時代の叙述が「とにかく濃厚」(太田千亜美さん)。著者の過剰な思い入れを指摘する声もあるが、その純粋な生き方ゆえに「いつの間にか木村の生涯に寄り添ってしまう」と青島さん。切なくも堂々たる武道家の評伝だ。

(1)新潮社(2)2014年(文庫)(3)上巻869円、下巻924円 ★

3位 江夏の21球(山際淳司)


490ポイント 九回裏の攻防 名投手の内面に迫る

1979年のプロ野球日本シリーズ第7戦の九回裏、広島カープに1点差と迫った近鉄バファローズが好機を迎える。昭和の名投手、江夏豊がこのピンチをいかに切り抜けたか。26分余りの間に投じた21球を追い、当事者の思惑や駆け引きを克明に描く。「短編なのに長編映画のよう」(幸脇啓子さん)。80年「Sports Graphic Number」(文芸春秋)創刊号に掲載された、画期をなす"古典"だ。

クールな文体、映像的で臨場感にあふれる「独自の表現が読者を強くひきつける」(佐藤さん)。松瀬学さんは、試合の現場にいなくとも、後日に緻密な取材を重ねて江夏の内面を深く描写した、著者の豊かな感性にうなる。「スローカーブを、もう一球」(角川文庫)にも収録。

(1)KADOKAWA(2)2017年(新書)(3)924円 ★

4位 オシムの言葉(木村元彦)


430ポイント 哲人監督の実像 名言で浮き彫り

2006~07年に日本代表を率いたイビチャ・オシムは「日本サッカー史上、最も辞めてもらいたくなかった監督」(大森伸吾さん)かもしれない。独特の言い回しで本質を突く数々の言葉が、哲人めいた風貌やたたずまいと相まって「多くの日本人の心を揺さぶった」(山本さん)。ライオンに追われるウサギの例えは有名だ。本書は単なる名言録ではない。それを裏打ちするオシムの生涯と人間性を浮き彫りにする。

故郷のサラエボはユーゴ内戦で深い傷を負った。本書はかの地のサッカーを長年取材してきた著者と「オシムとの信頼関係あってこその内容」(幸脇さん)だ。単行本は05年刊。

(1)集英社(2)08年(文庫)(3)748円 ★

5位 詰むや、詰まざるや 森・西武vs野村・ヤクルトの2年間(長谷川晶一)


360ポイント 知力尽くす闘い生々しく

1992年、93年のプロ野球日本シリーズで相まみえたのは森祇晶(まさあき)、野村克也という捕手出身の名監督率いる2チーム。「キツネとタヌキの化かし合い」と称され、2年連続で7戦までもつれた名勝負を、将棋の一手一手を追うように詳述する。「双方の関係者への数多いインタビューで激闘の裏側を描いた傑作」(内田俊明さん)

知力を尽くす両監督、選手の証言が生々しい。その選手達も「ものすごい集団だった」(大森さん)。野球の魅力と奥深さ、采配の妙が凝縮された本書は「野村さんにとって最高のレクイエム」(青島さん)。著者のプロ野球愛あふれる1冊だ。

(1)インプレス(2)2020年(3)2200円 ★

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