天体が飛び交う太陽系

今後の軌道をめぐる誤差は、ベンヌそのものやオシリス・レックスのデータに起因するのではなく、太陽系の他の部分に起因する。

ファルノッキア氏らがシミュレーションを行った際は、太陽の光がどのようにベンヌを温めるか、あるいは、太陽系内にある他の数百個の天体(遠くは冥王星まで)の重力がベンヌに及ぼす影響など、多くの要因を考慮する必要があった。小惑星帯の中でも特に大きい343個の小惑星の質量を推定しなければならなかったことには苦労したという。

「他の小惑星が影響を与えていることには驚きました」とローレッタ氏は言う。他の誤差の要因が十分に小さくなると「これらの影響が現れてきて、なるほどと思いました」

予測は今後のミッションでさらに精密になると期待されている。2026年に打ち上げが予定されているNASAの「地球近傍天体(NEO)サーベイヤー」は、赤外線を使って地球近傍の小惑星の熱放射を観測し、小惑星の大きさを推定する宇宙望遠鏡だ。この望遠鏡によって、さらに数十万個の小惑星が発見されるとともに、既知の小惑星についても、より良いデータが得られると期待されている。

「何が起こりうるかを合理的に把握するために、地球近傍にある天体をできるだけ多く観測し、できるだけ多くのことを知りたいのです」とNEOサーベイヤーの主任研究員であるメインザー氏は語る。

メインザー氏とローレッタ氏は、もっと多くの小惑星に探査機を送り込むのも有効だと言う。

オシリス・レックスも、次の観測に備えている。2023年9月、探査機は地球をかすめて飛行し、ベンヌのサンプルを詰めたカプセルを米ユタ州の砂漠に投下して太陽系の旅を続ける予定だ。今のところ、ローレッタ氏のチームがオシリス・レックスの次のターゲットにできると考える天体は、2029年4月に地球に接近する地球近傍小惑星「アポフィス」だけだ。

アポフィスは、少なくとも今後100年は地球に衝突するおそれはない。しかし、アポフィスのような天体を訪れることで、新たな地形や見通しを発見し、太陽系の歴史をより深く知ることができるはずだ。

人類には、ベンヌが地球に衝突するリスクを監視し、必要とあればそのリスクを修正するのに1世紀以上の猶予を与えられている。すでに各国の宇宙機関は、小惑星の脅威を回避するための手順や技術のテストを始めている。2022年には、NASAの「DART(二重小惑星方向転換)ミッション」が、地球近傍の小惑星を周回する直径170メートルの小惑星に探査機を衝突させて、その軌道を変えることを目指している。

将来、人類が小惑星の衝突に脅かされるようなことがあれば、DARTのような「衝突機」の大型版を使って、小惑星を安全な軌道に誘導できるかもしれない。ベンヌのように、衝突の可能性がある時期よりも200年近く前に発見された天体に対しては、人類には「たくさんの選択肢があるのです」とメインザー氏は言う。

(文 MICHAEL GRESHKO、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年8月17日付]

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