3本足で生き抜く希望のライオン 密猟の脅威は続く
アフリカライオンのジェイコブは、わなにかかったり、毒殺されそうになったり、角で突かれたりして、これまでに4度も死にそうな目に遭ってきた。普通のライオンだったらとっくに命を落としていただろう。
6歳のジェイコブは、東アフリカのウガンダにあるクイーン・エリザベス国立公園にすみ、木登りをするライオンとして知られている。時折、群れの仲間と一緒に、隣接しているビルンガ国立公園(コンゴ民主共和国)まで足を延ばす。2020年8月、そのビルンガでジェイコブは片方の足をわなに挟まれ、切断されてしまった。
ジェイコブは、ウガンダ野生生物局の獣医らによって何度も処置を受け、次第に3本の足で歩くことを学び、群れと一緒に狩りをするまでに回復した。それ以来、少なくとも1頭のメスと交尾する姿も見られたと、ライオン研究者のアレックス・ブラズコウスキ氏は言う。ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラー(協会が支援する研究者)でもあるブラズコウスキ氏は21年2月に、クイーン・エリザベス国立公園でジェイコブの姿を撮影した。
ジェイコブの回復ぶりは、多くの人に希望を与えてくれる。ブラズコウスキ氏は8月10日の「世界ライオンの日」にちなんで、そう語った。ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラー・アット・ラージであるデレック・ジュベール氏とビバリー・ジュベール氏によって、13年に制定された記念日だ。
「生き続けるチャンスが半分でも与えられれば、なんとか生きていけるという姿を見せてくれているようで、胸を打たれました。素晴らしいことです」
しかし同時に、ジェイコブに降りかかった不幸は、種としてのライオンが直面している深刻な脅威の一面を浮き彫りにしている。
野生のライオンの数は残りわずか2万頭ほどで、国際自然保護連合(IUCN)はライオンを危急種(Vulnerable)に指定している。密猟者たちは、以前にもましてアフリカのライオンを標的にするようになった。ネコ科動物の世界的な保護団体「パンセラ」でライオン保護プログラムのディレクターを務めるポール・ファンストン氏によると、ライオンの歯や爪、骨は、東南アジアや、アフリカの一部の地域で、薬やステータスシンボルとして重宝されているという。
20年3月、ジェイコブと同じ群れの6頭のライオンが、密猟者によって毒殺された。このときジェイコブは危うく難を逃れたが、それから数週間後に、アフリカスイギュウかイボイノシシとみられる動物に角で突かれて、胸に深い傷を負った。また、19年にも、やはり密猟者の仕掛けたくくりわなにかかっていたところを助け出されていた。
「ライオンの取引は、すぐに阻止すべきです。ただでさえ個体数が激減している多くの群れを、局所的な絶滅に追い込んでしまいます」と、ファンストン氏は訴える。
他の動物も狙ったわなが増えて餌も不足
ジェイコブは、無線追跡装置付きの首輪をはめている。首輪の現在位置が全く動かなくなると異状の恐れがあるため、ウガンダ野生生物局に警告が届くようになっている。ジェイコブが片方の足を失った時、かけつけた局員が中心となって、懸命に治療した。この努力は、専門家や保護団体の目に留まった。
ジェイコブがすむ地域は人気の観光地だが、最近はライオンだけでなく他の動物も狙ったわなが増えている。ブラズコウスキ氏によると、野生動物を捕らえて食べるためだという。
人間の罠で捕らえられる動物が増えて、獲物が不足すると、ライオンたちは食べ物を求めて長距離を移動するようになる。この地域のライオンは、ケニアのマサイマラ国立保護区のライオンと比べて6倍もの距離を移動しているという研究結果がある。また、10年前と比較しても、移動距離は大きく伸びている。
クイーン・エリザベス国立公園とその周辺では、「ライオンの保護が成功するかどうかは、ウガンダ野生生物局と非政府団体との協力関係にかかっています。そして、保護が必要な時と場所を見定めることも重要です」とブラズコウスキ氏は言う。
保護活動家もこれに同意し、ライオンを違法取引から守るには、さらに多くの対策が必要だと主張する。たとえば、ライオンを見守る警備隊の予算の増額や、わなを撤去するパトロール、動物を保護するための連携、そして地元住民との関係強化などが求められる。
ファンストン氏によると、現在残っている生息地のうち、アフリカ南部と東部を中心とする約15~20%の地域においては、ライオンは十分な保護を受けている。
しかし、今のままわなの存在や密猟を放置していては、「あと数年で局所的な絶滅が起こるところも出てくるでしょう」と言い添えた。
(文 DOUGLAS MAIN、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年8月13日付]
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