ウイルスが拡大して時間が経つと、感染力が強くワクチンの効果が下がる変異株が生まれた。デルタ株は、これまでで最も感染力が強い。最初に発見されたインドでは、4月に世界最大の感染爆発が起こった。

その後デルタ株はインドネシアでも感染の急拡大を引き起こし、首都ジャカルタで実施した抗体検査では、半分以上が既に感染した可能性が示された。別の変異株であるラムダ株も、一部のワクチンが効かないのではという報告がある。

急激に変異するウイルスとの戦いは、「二歩進んで一歩下がらなければならないこともあります」と、米ミネソタ大学感染症研究政策センター長のマイケル・オスターホルム氏は言う。

終息宣言を出すのは誰?

ところで、政府や国際的な組織よりも早く、世間がパンデミックの終了を決めてしまうことも頭に入れておきたい。

エール大学の医学史および歴史学の教授ナオミ・ロジャーズ氏は、第1次世界大戦の真っ最中に発生した1918年のパンデミックの例を挙げる。戦いが終わると、「人々はこれまでの10年間をすべて忘れて、前へ進みたいと思っていました」という。米国ではまだウイルスがまん延していたが、世の中は「狂騒の20年代」へと突入しつつあった。

ただし、科学よりも先に社会がパンデミックの終息を宣言するならば、死をも含むその深刻な結果を受け入れなければならない。現在の季節性インフルエンザはエンデミックとみなされている。それでも、米疾病対策センター(CDC)によると、米国では今も年間1万2000~6万1000人がインフルエンザで命を落とす感染症だ。

ボストンにあるマサチューセッツ総合病院テクノロジー評価研究所の決定科学者ジャグプリート・チャトワル氏は、「死者数を一定のレベルまで引き下げ、通常の生活を取り戻せば、パンデミックは『終息した』と言えるでしょう」と話す。そのためにも、ワクチンが果たす役割は大きい。米国では、ワクチン接種率が高い地域で新型コロナによる死者数が減少している。

国レベルではどうか。「米国はCDCが、パンデミックからエンデミックへの移行を判断するガイドラインを出すだろう」とピルチ・ローブ氏は言う。そうなれば、世界的な終息宣言はともかく、ある程度通常の生活へ戻る道筋がつくだろう。

「誰もが皆、コロナ以前の生活に戻りたいと願っています」と、ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院の疫学者アンドリュー・アズマン氏は言う。「人々がそうするのに、WHOによる終息宣言は必要ありません」

(文 JILLIAN KRAMER、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年8月12日付]