
今年に入って減少傾向にあった新型コロナウイルス感染症の新規感染者数が、7月以降に世界各地で増加し、目の前に見えていたトンネルの出口が遠ざかってしまったような徒労感を覚える。
2021年5月、米国、ヨーロッパの一部、中東ではワクチン接種率の上昇に伴って新規感染者数が減少すると、社会的規制や旅行制限が解かれ、店は一斉に営業を再開した。ところが、喜んだのもつかの間。7月に入って米国ではワクチンの接種者数を示すグラフが横ばいとなり、感染力の強い変異株が猛威を振るうようになる。公衆衛生当局は再び方針を転換し、マスクの着用を推奨し、ワクチン接種を呼びかけた。
世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的流行)を宣言したのは20年3月11日。あれから17カ月、つらく長い混乱の日々を耐えてきた誰もが、同じ思いを抱えている。パンデミックはいつになったら終わるのか?
「専門家の間でも、意見は様々です」と語るのは、米ハーバード大学T・H・チャン公衆衛生大学院の緊急時即応体制研究・評価・実践プログラムのフェローであるレイチェル・ピルチ・ローブ氏だ。「パンデミックの終息の定義は一つではないからです」
パンデミックとは感染症の世界的な流行のことを言う。最近の米国では国内の衛生対策や規制が緩和され、「多くの人が、危機が治まったという印象を抱きました」と、ピルチ・ローブ氏は指摘する。この根拠のない高揚感が、いまだに危機を脱していない世界の現実から人々の目を背けてしまった。「世界的な規模でウイルスを管理・抑制できなければ、新型コロナはいつまでたってもなくなりません」
そうであれば、「終息」宣言はまだだいぶ先のことになりそうだ。そして、新型コロナが消えなくても、定義によってはパンデミックは終わることになる。WHOの定義では、世界的に流行していた感染症が一部の地域に抑え込まれれば「エピデミック」に変わる。さらにWHOが判断する「予測できる範囲内または通常の範囲内」にまで抑えられれば、人々の間で慢性的に発生し続ける「エンデミック」に変わるからだ。
新型コロナウイルスは根絶できる?
その段階になれば、新型コロナは「人々が免疫を構築し、それほど深刻な事態はもたらさない」ウイルスになるだろうと、免疫学者で米エール大学グローバルヘルス研究所長のサード・オメル氏は言う。
人類史上、これまで根絶に至った感染症は、天然痘と牛疫だけだ。どちらも、世界的なワクチン普及運動のおかげで新たな発症を食い止めることに成功した。最後に確認された牛疫は、01年にケニアで見つかったきりで、天然痘のほうは1978年に英国で確認されて以来報告例がない。