転職市場で営業職の年収UP 背景にコロナ禍と新職種
企業の売り上げ確保には欠かせない営業職。その営業職に転職する際に提示される年収が上昇しています。即戦力を中心にニーズが高まり、それに伴い高くなっています。エン・ジャパンの求人サイト「エン転職」で「営業系」の募集時年収をみるとコロナ禍で企業活動が鈍化した2020年春は低下が目立ちましたが、6月以降にプラスに転じ、新年度に向けた求人が動き始める12月からは全職種平均の伸びを上回りました。
転職希望者が増える
営業職も含めた転職市場全体の転職希望者も増えています。転職サイトdodaの「転職求人倍率レポート」によると、転職希望者数は今年4月に過去最高を更新し、その後も伸び続けています。6月の求人倍率は1.86倍と20年9月(1.61倍)を底に回復傾向にあります。エン・ジャパンによるとコロナ下で経営環境が悪化している飲食やホテル、小売りから若手の人材流出が広がっています。昨年は前の年度に比べ2割増えました。主な転職先は営業職が49.1%と最も多くなりました。転職市場全体でも営業職に就職する人は多く、今年も6月時点で全体の約4割と上昇傾向にあります。
そのなかで営業職の年収が上昇しているのはなぜでしょうか。要因はいくつかあります。コロナの影響で在宅勤務が広がり以前のように社内で十分な研修ができなくなりました。未経験者を育成するよりも、すぐに売り上げに貢献できる即戦力の採用を急いでいます。同じ事情でスキルが高い経験者に需要が集中していて、提示年収を引き上げる求人が増えています。
顧客とのつながり重視の営業に
さらに営業職の中で「カスタマーサクセス」という業務のニーズが増えています。顧客と常に接点を持って自社の商品・サービスの利用を促す職種です。
サブスクが広がり始めた2019年から年々増加していて、エン・ジャパンの若手ハイキャリア向けの転職求人サイト「AMBI」の今年4月から6月までの求人数は、前年同月比で約6倍に増えました。2019年1~3月と比べると18倍になっています。
これまでの営業の仕事は、どちらかというと商品やサービスを販売するだけという側面が強かったです。販売した後は、お客さんからの問い合わせや苦情に「顧客サービス」係が対応していました。ここ数年、シェアリングやサブスクが広がったことで、企業側が常に顧客との接点を保っていないと値段が安い他社に顧客を取られてしまうケースが多くなりました。顧客との接点を保つために人を手厚く配置する必要が出てきて、新しい営業のスタイルが増えるようになったのです。コロナで中途採用の求人が増えたことと、今の時代にあった新しい営業職が出てきたことが年収を引き上げたんですね。
今日の方程式はこうなります。
人材の質向上が課題
顧客の成功、つまり事業で成果が出してもらうことと自社の収益とを両立させる、カスタマーサクセスという考え方はありとあらゆる商品・サービスで不可欠になっています。特にSNSの普及で、モノやサービスを売るにはお客さんのクチコミが極めて重要です。「売りっぱなし」でなく、ちゃんと最後まで面倒を見てくれる姿勢が大事になりました。ただ、ニーズが増える一方で、これまで企業があまり力を入れてこなかった職種なので人材の質の向上も急務になるだろうと思います。
(BSテレ東日経モーニングプラスFTコメンテーター 村野孝直)
BSテレ東の朝の情報番組「日経モーニングプラスFT」(月曜から金曜の午前7時5分から)内の特集「値段の方程式」のコーナーで取り上げたテーマに加筆しました。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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