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クライミングのチョーク ブームの影で自然や景観壊す

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NIKKEI STYLE

ナショナルジオグラフィック日本版

東京オリンピックで人工の壁を登る「スポーツクライミング」が競技種目に加わり、かつて一部のマニアのみのスポーツだったロッククライミングが今、新たな脚光を浴びている。

だが、ロッククライミングや、そこから派生したボルダリング(ロープやハーネスを使わずに比較的低い岩や人工の壁を登るスポーツ)の人気が高まるにつれて、こういったスポーツに欠かせないチョークによる環境への悪影響が懸念されるようになっている。

米国では、チョークの跡がひどくなるにつれて、その使用を制限する場所が現れ始めた。ユタ州のアーチーズ国立公園では、岩の色に近い色付きチョークのみが許可されている。一方、コロラド州のガーデン・オブ・ザ・ゴッズ国立自然ランドマークでは、チョークとその代替品の利用が一切禁じられている。アメリカ先住民の人々も、先住民の管理下にある地域へのクライマーの立ち入りを禁止すると宣言した。これには、チョークが景観を損なうことに加え、宗教的に重要な場所を守るためでもある。

クライミング用チョークの原料は炭酸マグネシウムで、体操や重量挙げの選手が鉄棒やバーベルを握るときに使うのと同じものだ。ロッククライミングでチョークが使われるようになったのは1950年代のことで、初めて使ったのは、学生時代に体操を行っており、のちにボルダリングに転向したジョン・ギル氏だった。

それ以降、手を乾燥させて摩擦を調整できるチョークは、プロ、アマを問わず好んで使われるようになった。チョークはきれいにするのがマナーになっているとはいえ、今では世界中の岩壁にチョークの跡が残される事態になっている。

新たな研究によれば、チョークは景観だけでなく、岩壁の植物相も損なう可能性がある。

2020年10月に発表された研究によると、実験室の環境において、クライミング用のチョークは岩壁に生えるシダやコケ各4種の発芽と生存に悪影響を与えた。その影響は、チョークを拭き取っても変わらないようだ。一度ついた化学物質は完全には除去できず、岩壁表面の酸性度が変化するので、その後も植物の生存能力に影響を与え続けることになる。

問題は、クライミングスポットには「迷子石」と呼ばれる、氷河によって長い年月をかけて別の場所から運ばれてきた巨大な石も含まれることだ。研究でも注目されたように、このような場所はいわば植生の孤島で、周囲とは違う独自の生態系が存在する。そこには、氷河期や、当時の植生がどのように移動したかにまつわる情報が隠されているかもしれない。

さらに、チョークがクライミングに有効かどうかさえ、まだはっきりとはわかっていない。グリップ力を高める効果はないという論文もあれば、まったく逆の結論を出した論文もある。

スイス、チューリヒ工科大学の博士候補生で、前述の20年の研究の共著者でもあるダニエル・ヘペンストリック氏によると、チョークが役立つというクライマーもいるものの、どうやら心理的な影響である可能性の方が高いようだ。氏もロッククライマーの一人だ。「登っている最中に困ったことが起きたらどうするでしょうか。みんな、手にチョークをつけるのです」

チョークが環境に及ぼす影響

クライミング用チョークには、製造の過程で生じる問題もある。炭酸マグネシウム(MgCO3)は、地中深くに存在するマグネサイトという鉱物から得られる。雑誌「Climbing」によると、その70%以上は中国の遼寧省産だ。採掘や加工を行うプラントの周囲を撮影した衛星写真からは、雪のように見える炭酸マグネシウムの粉末が山積みされている様子がうかがえる。

中国政府は鉱業関連の法規制を強化し、環境への影響を抑えるとともに、環境の浄化を進めようとしている。しかし、遼寧省にある中国科学院瀋陽応用生態研究所の生態学者で、炭酸マグネシウムについて研究する曾徳慧氏も、チョークが植物相に与える影響について、ヘペンストリック氏と同じ意見だ。曾氏によると、採掘現場のマグネシウムの濃度が高い土壌サンプルでは、養分や微生物の減少、植物の枯死などが見られるという。

ただし、ヘペンストリック氏は、チョークの環境への影響について調べた研究はまだ少なく、結論を断定できる段階にはない点を強調している。クライミング用チョークの影響を詳細に把握するには、さらなる研究が必要になる。だが、それは簡単なことではない。

総じて、ロッククライミングによる環境への影響はまだよくわかっていない。制限となる要素の一つが、現場へのアクセスだ。

 ほとんどの研究者はクライマーではないうえ、アクセスが比較的簡単な場所であっても、地形自体が常に変化するものなので、クライミングによる影響は判断しにくい。「岩壁の生態は非常に繊細で、それに影響を与える可能性があるメカニズムを解明するのは困難な作業です」。米バーモント大学の博士候補生で、岩壁の生態を専門とするピーター・クラーク氏はそう述べる。

クライミング愛好家向けのガイドラインを作成している支援団体Access Fundなどは、まだ方針の変更は行っておらず、ヘペンストリック氏の報告に対する反応を注視している。同団体の事務局長を務めるクリス・ウィンター氏は、「データを参考にして、保護に関する懸念があれば真剣に受けとめたいと思います」と述べている。

クリーンなクライミングとは

つまり、さらに詳しい調査が行われるまで、すべてはクライマーに委ねられることになるが、クライマーは自然をとても大切に思っている、とヘペンストリック氏は言う。「クライミング用チョークの使い方によって環境に影響があることが伝われば、受けとめてくれるはずです」

景観への影響を軽減する方法の一つは、岩に似た色のチョークを使うことだ。2種類の色付きチョークを販売しているClimbing Addictsのオーナー、ショーン・アクセルロッド氏は、クライミングの根底にある冒険心を保つことにもつながるという。つまり、チョークの跡を見れば道がわかってしまうが、見えにくいチョークを使えば、全員が公平に挑戦できる。「そうでなければ、個性も、創造性も、次のステップへの挑戦もなくなってしまいます」

しかし、色付きチョークは見た目の問題の対策にはなるかもしれないが、環境への被害は防げない。ほとんどの色付きチョークには、炭酸マグネシウムとともに他の材料が使われている。アクセルロッド氏は、財産権の都合で製品の素材は開示できないと述べる。

「跡を残さない」という目標の先まで考えるなら、別の素材について考慮する必要があるかもしれない。ギル氏によると現在はチョークが好まれているが、かつては樹液などの自然由来の樹脂や花粉が使われていたという。

自然由来の素材を使う方法以外では、極論は何も使わないことだ。ギル氏は、黎明(れいめい)期のロッククライミングについてこう語る。

「当時は今とは全然違い、多少の跡があったとしても、気になる程ではありませんでした。友人のイボン・シュイナード(アウトドア用品の製造販売を手がけるパタゴニアの創業者)は、ボルダリングをするとき、何も使いませんでした。道具を使うのはずるいことだと考えていたからです。おそらく今でも目障りだと言うでしょうね。もっとひどいことも言うかもしれません」

(文 JACKIE SNOW、訳 鈴木和博、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2021年8月9日付]

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