男性が中心のスタートアップ界で、女性起業家の支援に取り組む人がいる。今春に一橋大学を卒業したばかりのベンチャーキャピタリスト、江原ニーナさん(24)だ。大学在学中から独立系ベンチャーキャピタル(VC)のANRI(東京・渋谷)に所属。最近では、同VCが新しいファンドで打ち出した「投資先の2割以上を女性起業家に」という方針の策定を主導した。ジェンダー問題を勉強していた1人の大学生を投資の世界へ導いたのは、「起業家が多様になれば社会も多様になる」という思いだった。
ジェンダー問題への興味、きっかけは米国暮らし
「たまたまサウナに入ったら、投資先のプロダクトを褒めてる人がいたんですよ!」。笑顔で話す江原さんの表情は、ワクワクであふれていた。手掛けた投資先には、若い女性向けのスキルアップスクールや生理用吸水ショーツなど、女性目線で開発されたモノやサービスを手掛ける企業が多い。ツイッターなどで製品の感想を見かけると、「見ず知らずの誰かの人生をハッピーにしてるんだなって感じる」。こうした瞬間が仕事へのモチベーションだ。
そんな彼女が女性の生き方やジェンダー問題に興味を持ち始めた原点は、「行っていない自分が想像できない」と話す米国での生活だ。九州の名門公立高校、熊本高校に入学したが、1年生の夏に親の仕事の都合で、生まれ育った熊本市を離れ米ノースカロライナ州に渡った。英語を必死で勉強した結果、高校の科目を通常より早く履修し終え、飛び級して地元の大学に入学した。
ちょうど米国内では、同性婚の合法化を進める動きが勢いづいていた。2014年には彼女が暮らしていた州でも合法化され、「世の中の流れが変わる瞬間に立ち会った」のが大きかった。加えて、高校の恩師の白人男性教師はフェミニストだった。「男性でもなれるんだ」と衝撃を受け、フェミニストに対する「自分の権利を主張する人たち」といったイメージが一変した。
16年夏に帰国後、ジェンダー問題について学ぶため翌年春に一橋大社会学部へ進学する。ジェンダー研究が盛んで、学部の垣根なく授業を履修できる一橋大ならば幅広い視点から学べると感じていた。しかし、色々な角度から探っていくうちに「無力感に襲われた」。未解決の課題があまりに多く、構造的すぎてなかなか解決に導けない――。もどかしい気持ちから、ジェンダー問題から距離を置いた時期もあった。