「ヘボコン相撲」白熱 ハイテク不用ロボが対戦
ダメさにのぞく人間味
ステージに設置された大きな卓球台のような100センチ四方の「土俵」に乗る4体のロボット。試合開始を告げるブザーが鳴り響くや否や、タイヤを付けた大型のちりとりが急発進、1体にすくい投げを食らわせる。その傍らでは紙粘土でできた重量級のシロクマのロボットと、6本ものクローラー(無限軌道)を備えた異形のプラモデルががっぷり四つに組んでいる。
東京・お台場のイベントスペースで19日夜、開かれたヘボコンの2回戦の一幕だ。1回戦を勝ち抜いたツワモノたちの戦いぶりはさすがといいたいところだが、実際はちりとりは急発進の勢いで止まりきれずに自ら土俵の外へ。シロクマはプラモデルの突進をどっしり食い止めているように見えて、実は単に電池のパワー不足で立ち往生しているだけ。プラモデルもいかめしいのは見た目ばかりで、重いシロクマに体当たりしてはじき返されていた。
ヘボコンはこんな技術レベルの低いロボットを愛する石川大樹さん(34)が企画。当初は「個人的に10人程度で、公民館の和室なんかで細々と集まるつもりだった」(石川さん)。ところがブログで呼びかけると出場希望者が瞬く間に数十人規模に。自身もコンテンツ制作や編集を手がけるニフティのサイト「デイリーポータルZ」の公式イベントに「格上げ」され、最終的に総勢32体のダメロボたちが一堂に会する一大大会となった。
「ダメなロボットは妥協や諦めといった人間の弱い部分の結晶。冷たいはずのロボットに人間らしい部分が見えるのがいとおしい」と魅力を語る石川さん。「失敗があるからこそ成功がある、だから失敗にも価値があるんだ」という考え方は"成功至上主義"だと批判する。「ダメなロボットはそれ自体で魅力的。工学的にではなく、背景にストーリーが見える文学として楽しめる。そういうロボットが活躍できる場があってもいい」と力を込める。
懐の深さ、ユニークな発想生む
そんなダメなロボットだらけでもきちんと試合が成立するよう、ルールも工夫した。ロボットが動かず勝負がつかない場合を想定し、1分間の移動距離が長い方を勝ちとする判定基準を導入。高度な機能を禁止するペナルティーも設けた。あくまでダメなロボット同士がフェアに戦えるよう遠隔操縦や自動操縦を禁じ、徹底的に「ダメさ」を追求した。
半面、出場ロボットに予算上限などは設定しなかった。「自分の技術のなさをお金でカバーしようとする心意気の低さも、人間のダメなところとして評価したい」(石川さん)
こんな「懐の深い」大会にはユニークなロボットが続々登場。動力源を持たず「位置エネルギーエンジン」と呼ぶスロープを駆け下りて発進する原始的な仕組みのロボットで戦ったのは都内の会社員、すずえりさん。観客の投票で「一番技術力が低い人の賞」を受賞した。「いまはインターネットで調べれば誰でもちゃんとしたものを作れる時代。なのに下手な人がやるとこうなってしまうというところがおもしろい」(すずえりさん)
今回、栄冠を勝ち取ったのは子どものころから工作が好きだったという横浜市の会社員、かめたろうさん(54)だ。よく見るとボディー部分が一部欠けていてモーターがはみ出しているなど「ヘボい」ところはあるが、掃除ロボットのような大きなサイズと馬力のある前進力でベテランらしく危なげない戦いを展開し、頂点に立った。
その一方で、技術力の高い人たち向けの"正統派"の書籍シリーズ「Make: Japan」から特別賞を受賞したのは今回の最年少出場者で大阪府豊中市の小学5年生、前田創くん。
「2足歩行のつもりが4足歩行になってしまった」そうだが、前進、後退、右回転、左回転の機能を備え自在に動き回るロボットを投入。土俵際の粘り強さを披露し、会場の喝采を浴びていた。
母親のすすめで参加したという前田くん。惜しくも2回戦敗退だったが、大会終了後には「将来はロボットをつくる人になりたい」と目を輝かせていた。ダメなものを楽しむ――。そんな懐の深い場所こそ、豊かな才能が花開く土壌なのかもしれない。(若狭美緒)
[日経MJ2014年7月25日掲載]
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