2030年、変化の鍵握るのは中国 米ノーベル経済学者ポール・クルーグマン・ニューヨーク市立大学大学院センター教授(下)

ニューヨーク市立大学大学院センター教授 ポール・クルーグマン氏 (c) Fred R. Conrad/The New York Times
ニューヨーク市立大学大学院センター教授 ポール・クルーグマン氏 (c) Fred R. Conrad/The New York Times

ノーベル経済学賞を受賞した経済学者、ポール・クルーグマン氏はニューヨーク・タイムズなどを舞台にしたジャーナリストとしての活動でも知られ、時事的なテーマでの発言も多い。新型コロナウイルスによるパンデミックが今なお続く中、世界の今と未来をどのように見ているのか。作家でコンサルタントの佐藤智恵氏がインタビューした。

ワクチン接種こそ経済復元の原動力

佐藤 今後、世界経済はどのように復元していくと思いますか。

クルーグマン 新型コロナウイルスの感染拡大がはじまって以来、私が言い続けてきたのは「このウイルスをコントロールできる状況になったら、経済は急速に回復しはじめる」ということです。それがまさにいま米国で現実となりつつあります。政府が大々的なワクチンキャンペーンを実施し、驚異的なスピードでワクチン接種をすすめた結果、米国の非農業部門の雇用者数は大きく増加し、失業率も改善傾向にあります。

残念ながら、世界の多くの国々ではいまだ回復の兆しが見られません。その大きな要因はワクチン接種が進んでいないことです。現在、経済を急速に回復させているのが米国と英国です。パンデミック発生当初、感染の抑制に失敗した両国が、一転、ワクチン接種においては世界をリードすることとなったのです。

その要因は両国がワクチンの開発に成功し、ワクチン接種を他の国よりも早く、大規模に進めたことです。ワクチン接種を完了した国民の割合が高くなれば、多くのビジネスを再開することができます。この結果からワクチン接種こそが、経済復元の主要な原動力であることがわかります。

しかしながら現在の米国と英国が世界経済の回復をリードする状況は一時的なものだと思います。今年に入ってからしばらく2国の接種完了率が突出していましたが、現在は多くの欧州の国々が追いつきつつあります。特にドイツは英国に迫る勢いですから、欧州最大の経済国ドイツが急速に経済を回復させていけば、英国の優位も揺らいでくるでしょう。

ところで、世界の経済大国の中で最もワクチン接種が進んでいない国が日本です。なぜこれほど遅れているのか、私には不思議でなりません。

佐藤 どの国にとっても「ワクチン接種」が経済回復のための最も重要な鍵になるということですね。

クルーグマン そうです。ワクチン接種こそが最も重要なファクターです。国民の大半がワクチン接種を完了させれば、通常の消費行動を再開することができます。つまり個人の消費が戻ってきて、国全体の経済は回復へと向かうのです。

佐藤 日本はワクチン接種で後れをとっていますが、パンデミック下の日本の財政政策、金融政策についてはどう評価しますか。日本銀行は6月18日の金融政策決定会合で、大規模な金融緩和策を維持することを決定しています。

大規模な金融緩和と財政支出が必須

クルーグマン いま日本に必要なのは、大規模な金融緩和と短期的な大規模財政出動を同時に行い、意図的にインフレ率を上げることです。

日銀の金融緩和策を維持する方針は正しいですが、このまま続けても2%のインフレ目標を達成できるとは思えません。これまで日銀は幾度となく量的緩和政策を実施してきましたが、効果を発揮していません。ゼロ金利、マイナス金利政策を維持し、大規模緩和を行っても、インフレ率はあがらない。ある意味、日本の現在の状況は金融政策の限界を示しているのです。

佐藤 理想としては、日本は何%のインフレ率をめざすべきだと思いますか。日本銀行が掲げる2%は適切でしょうか。

クルーグマン 日本には「2%以上」のインフレ率が必要だと思います。この数字を達成するには、雇用は売り手市場となり、商品はどんどん売れるといった好景気状態を数年間にわたって継続することです。それには大規模な財政出動が必要です。緊縮財政ではだめなのです。

ご存じのとおり私は長年同じことを提言し続けてきましたが、いまだ日本は大胆な財政政策を実施していません。日本がバイデン政権のような大規模な財政出動を行い、乗数効果の高い積極財政を行えば、より高いインフレ率を達成することも可能でしょう。

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