200冊を解説、300冊のリストも

八重洲ブックセンター本店の川原敏治さんのおすすめは『読書大全』と『哲学と宗教全史』

一方の『読書大全』は、日本興業銀行(現みずほ銀行)、ゴールドマン・サックス証券などをへて森ビルの最高財務責任者(CFO)を務めた堀内勉・多摩大学社会的投資研究所教授・副所長が著者。田端氏よりひと世代上になるが、こちらもビジネスの修羅場をくぐってきた人による読書ガイドという点では、前者と共通する。「やはり長めの休暇でじっくり本が読めるなら、その後に読書する上でも参考なる本格的なブックガイドを読むのがいいのでは」と川原さんは推薦の理由を述べる。

書名で「大全」をうたい、副題に「世界のビジネスリーダーが読んでいる経済・哲学・歴史・科学200冊」とあるように、ブックガイドとしては大部の一冊だ。総ページ数は480ページを超える。まさに古典と呼べる『ギルガメッシュ叙事詩』『オデュッセイア』から最近刊行された『LIFE SHIFT』『FACTFULNESS』まで、200の名著をそれぞれ1~6ページで解説していく。加えてその200冊を含む1次リストというべき《人類の歴史に残る300冊》リストも巻末に収録している。

リブロの河又さんが選んだもう1冊は、野口悠紀雄『良いデジタル化 悪いデジタル化』(日本経済新聞出版)。日本のデジタル化の失敗の本質を明らかにし、将来に向けた方向付けを探った内容だ。「ワクチン接種の遅れなど最近のニュースを見ていると、今の日本にとって重要なテーマ。生活からビジネスまで幅広く関わる問題なので、きちんと知っておくのにちょうどいい本」と河又さんはいう。

川原さんのもう1冊は、19年刊の出口治明『哲学と宗教全史』(ダイヤモンド社)。還暦でネット生命保険会社を起業し、現在は立命館アジア太平洋大学学長を務める出口氏が、豊富な読書体験をもとに書いた本で、これまた450ページ超の大著となる。古代ギリシャ、古代中国から現代に至る「哲学と宗教」の全史を体系的に語っていく中身で、ビジネスパーソンに向けて発想の転換やビジネスの本質を考えるヒントとなることを意識して書かれた。「『新書大全』とは別の意味で自身の教養、思索を深める内容。スキマ読書ではなかなか読み通せない」と川原さんは夏休みの1冊に推す。

キーワードは「ナラティブ」

三省堂書店有楽町店の岡崎史子さんのおすすめは『ナラティブカンパニー』と『ナラティブ経済学』

本格的な本の中でも、刊行されたばかりの今日的なテーマの本をすすめてくれたのは準定点観測書店の三省堂書店有楽町店でビジネス書を担当する岡崎史子さん。「ナラティブというキーワードがこれからビジネスの世界で注目されていく感じがする」という。その言葉がタイトルに入った本田哲也『ナラティブカンパニー』(東洋経済新報社)とロバート・J・シラー『ナラティブ経済学』(山形浩生訳、東洋経済新報社)が岡崎さんのおすすめ本だ。。

ナラティブとは物語を指す言葉。PRの専門家、本田氏の本では、「物語的な構造」と定義する。企業やブランドを主役に一方通行で発信される完結型のストーリーと違って、あなた(生活者)を主役に企業も社会もともに巻き込み、未来までをも抱合して語り続ける企業行動がナラティブなのだという。

いわば「企業と生活者がともに紡ぐ物語」がナラティブで、これを生み出し、その構造の中でマーケティングや広告・PR活動を行うことで業績や企業価値の向上を果たしている企業がナラティブカンパニーだという。概念自体はなじみが薄いが、サンリオ・ピューロランドやネットフリックス、ソニーなど豊富な事例が取り上げられているので、これからの企業と社会のコミュニケーションを考えるヒントになりそうだ。

ノーベル経済学賞を受賞した経済学者、シラー氏による本は「経済予測の全く新しい考え方」との副題がつく。「社会的に流行するナラティブがマクロ経済にどう影響を与えるか」を考察した本だ。

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米で話題の『監視資本主義』
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