ハーバードでは、1年生は全学生がリベラルアーツ(教養)から入り、自分の興味の赴くままに専攻を深掘りしていくことが可能だ。「社会を解き明かしたい」と考えていた大柴さんは、社会哲学を専攻しようと考えた。しかし、ビジネスにも興味がわき、経済学のほか、応用数学や統計学、データを扱う計量経済学と次々学んでいった。

構内には世界中のコンピューターサイエンス(CS)の研究者が集まっている。AIセキュリティー研究の第一人者、ヤロン・シンガー教授とも出会った。CSと統計学を専攻し、研究にとどまらず社会実装したいと考えた。米IT企業から依頼を受け、1年休学し、東京に戻ってデータサイエンス関連の日本法人を立ち上げた。この際、サポートしてくれたのがデータ科学者として注目されている成田悠輔エール大学助教授だ。

指導教授と組んで起業

ハーバードに戻り、卒業を控えた大柴さんの今後の進路の選択肢は3つだった。スタンフォード大学院でマネジメントサイエンス&エンジニアリングを専攻するか、グーグルに入社してAI研究に携わるか、指導教授のシンガー氏とAIベンチャーを起業するか。AIビジネスは急速にニーズが高まっているが、「AI関連のセキュリティー企業は存在しない。ビジネスチャンスは大きい」と判断した。

AIセキュリティー研究の第一人者、ヤロン・シンガー教授(右)と共同で起業した

シンガー氏は発想力の豊かな若手の研究者、共同創業者として19年にAIセキュリティーの会社を設立した。米国の大学では教授と学生が組んで起業するのは珍しくはない。米大手VC(ベンチャーキャピタル)、セコイアキャピタルから10億円の資金調達に成功、顧客は米国企業にとどまらず、日本企業でも増えている。NTTデータや東京海上ホールディングスとも提携した。「ソフト開発からマーケティング、営業のリーダーまで何でもやっている。テクノロジーを探求し、ビジネスをやるのは楽しい」と大柴さんは語る。今や米国で注目の若手AI起業家の1人になった。

日本の優秀な高校生にはいまだ「東大至上主義」の生徒が少なくないが、日米を股にかけて活躍する大柴さんの姿を見ると、海外大直行は賢い選択だったといえそうだ。

開成高校に入学して10年。同期の仲間は個性派ぞろい。東大卒のピアニストとして活躍する角野隼斗さんも同級生だ。水上さんはクイズプレーヤーを卒業、医師の道に進んだ。大柴さんは20年に孫正義育英財団のメンバーに選ばれた。異才の集まる財団生には開成出身が少なくなく、水上さんもその1人。開成同期の約4割は東大に進み、海外大に進学したのは大柴さん1人だけ。「また面白い連中とつながりたい」と孫財団の門をたたいた。東大よりハーバード――。別々の道を歩んだ異才たちは再び集まり、新たなイノベーションを起こすかもしれない。

(代慶達也)

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