2021/8/21

すると、該当する地震は火星で6回発生していた。これを5000種類の火星マントルのモデルと照らし合わせてみると、地震波は地下およそ1600キロで何かにぶつかって跳ね返ってきていることがわかった。ここが、固体のマントルと液体の核との境界面ということになる。

この境界面の深さを基に、インサイトのチームは、火星の核の直径がこれまで考えられていたよりもわずかに大きい3580~3740キロであると推定した。つまり、核の平均的な密度は考えられていたよりもわずかに低いということになる。この推定を過去の研究成果と合わせて考えると、液体の核は鉄とニッケルから成り、総重量の10~15%の硫黄を含み、その他少量の酸素、水素、炭素といった軽元素を含んでいると考えられる。

また、火星のマントルは地球ほどの深さと圧力がないため、下部マントルは形成されていないことも示された。地球の場合、地下約660キロより深いところに高温高圧の岩石でできた下部マントルが存在し、核の熱を閉じ込めている。火星の核が冷えやすかった原因は、この下部マントルがなかったためとも言えそうだ。

この冷えやすさが、太古の火星の核における熱移動を助け、惑星全体を包む磁場を作り出していたのかもしれない。

現在の火星にはそのような磁場は存在しないが、南半球の地殻は強力な磁気を帯びている。これは45億~37億年前に、火星に地球のような磁場があったことを示している。火星が磁場を失ったのは、大気の大部分が失われたことと関連付けられており、なぜ磁場がなくなったのかがわかれば、火星が今のような乾燥した不毛の星になった時期や原因も明らかになる可能性がある。

あと2つの論文が明らかにしたこと

インサイトのデータは、火星の核だけでなく、マントルや地殻についても理解する手がかりを与えてくれた。

「サイエンス」誌に発表された第2の論文によると、チューリヒ工科大学の地球物理学者アミール・カーン氏率いるチームは、火星の地震データを使って約400~600キロの地下で温度が大きく変化していることを発見した。そこよりも上にある地殻とマントルは、熱を伝導するリソスフェア(岩石圏)を構成している。一方、それより下のマントルは粘性の液体のようにふるまい、ゆっくりと熱を対流させている。

さらに、火星地殻の下部に熱を発する元素が豊富に含まれていることも示された。その量は、その下にあるマントルの13~21倍とされている。これらの結果から、火星に地殻変動がないにもかかわらず火山が存在する理由が明らかになるかもしれない。

3つ目の論文は地殻の構造に迫ったもので、その結果によると地殻は2通りの解釈ができるという。一つは2層から成る厚さ20キロの地殻、もう一つは3層から成る厚さ39キロの地殻だ。どちらが正しいかがはっきりすれば、これもまた火星の起源やこれまでの変化を知る手がかりとなるだろう。

(文 MICHAEL GRESHKO、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年7月29日付]

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