日経ナショナル ジオグラフィック社

2021/8/20

ワクチンの種類別のブレイクスルー感染に関する一貫したデータがないことから、一部の研究者は、別の方法でワクチンの有効性を調査している。

まだ査読前であるものの、7月21日付で論文投稿サーバー「bioRxiv」に、ある研究結果が発表されて注目を集めた。ジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンを1回接種した10人と、ファイザーのワクチンを2回接種した17人の血液サンプルを分析したところ、前者の方が、デルタ株を含む新規変異株に対する抗体の反応が弱かった。

この研究はニューヨーク・タイムズ紙をはじめメディアで大きな話題となったが、サンプルが少ないこともあり、結論を出すには早すぎるとダーネル氏は言う。ほかの研究ではこれと相反する結果が出ているとも、氏は付け加えている。

21年3月に行われた、カリフォルニア大学サンディエゴ校およびロサンゼルス校で定期的に検査を受けていた1万5000人近くの医療従事者の分析では、ワクチン接種から15日以上経過した後、検査で陽性を示したのはわずか7人であり、陽性率は0.005%だったと、トリアーニ氏らは5月6日付で「NEJM」に発表している。

サンディエゴ校では現在、デルタ株が主流となっているが、ブレイクスルー感染はワクチンを接種していない人たちが感染した場合に比べるとはるかに症状が軽く、回復も早いという。ワクチンを接種した人の入院は極めてまれであり、死亡した例もない。

デルタ株には警戒が必要だ。デルタ株はどうやらあらゆるワクチンを回避する能力にすぐれており、また、米国内でブレイクスルー感染者の周りで感染者が増加しているという事実は、ワクチンを接種した人たちもウイルスを感染させる可能性があることを示していると、ダーネル氏は言う。そして、デルタ株はとりわけ感染力が強い。

それぞれのワクチンに違いはあっても、正確な比較にはさらなる研究が必要だ。ダーネル氏は言う。「産業界の企業と学術界の臨床医科学者とが協力できれば非常に有益でしょう。われわれにはもっと科学が必要なのです」

データが蓄積されるのを待つ間、子どもや免疫系が弱い人たちを含むあらゆる人を守るうえで、ワクチン接種が最善の方法であることに変わりはないと、ローズ氏は言う。

ワクチンを接種することの方が特定のワクチンを選ぶことよりも重要であり、「どのワクチンも優秀です」とトリアーニ氏は指摘する。

(文 EMILY SOHN、訳 北村京子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年7月28日付]