日経ナショナル ジオグラフィック社

2021/8/25

ミンドロワニ、世界一レアなワニ

ミンドロワニ(Crocodylus mindorensis)は世界で最も希少なワニだが、北シエラ・マドレ自然公園を訪れれば、かなりの確率で、野生に生きる姿を見ることができる。1つだけ忘れてはいけないものがある。ヘッドランプだ。

「自然の湖のほとりに観察塔を建設しました。夜間ならほぼ確実にミンドロワニが見られます」と、非営利の保護団体マブワヤ財団のCEOマーリン・ファン・ウエールド氏は話す。

ミンドロワニの子どもの首に突き出ているウロコを調べるワニの専門家アマンテ・ヨグヨグ氏。この首のウロコの有無が、ミンドロワニかイリエワニかを判断する主な身体的特徴となる(PHOTOGRAPH BY GAB MEJIA)

タマラオと同様、ミンドロワニは小型で、成長しても体長約1.5メートル、体重14キロほどにしかならない。好きな食べ物はカタツムリだ。

彼らの好物には、地元の米農家にとって脅威となる侵略的外来種のスクミリンゴガイも含まれる、とファン・ウエールド氏は言う。また作物に害を及ぼす、外来種のネズミも食べる。

「つまり、固有種であるミンドロワニは、水田で作物にとって有害な外来種を食べてその数を抑えることで、フィリピンの農家を助けているのです」と同氏は話す。

地球に残るおとなのミンドロワニは92~137頭だけで、近絶滅種(critically endangered)に指定されている。だが残念ながら、ミンドロワニは家畜や人間に対する脅威だと見なされて、人に殺されてしまうケースもある。

フィリピンワシ、王者の風格

乳白色の毛が生えた下腹部や、逆立てると非常に特徴的な長い冠羽など、フィリピンワシ(Pithecophaga jefferyi)は王者の風格を漂わせる。「翼を広げれば、誰もがその影に覆われます」とメヒア氏は話す。「まさに猛禽(もうきん)類の王と女王なのです」。フィリピンの国鳥に指定されているのも不思議ではない。

サルを食べることから、サルクイワシとも呼ばれる。野生には成鳥のつがいは400組しか残っておらず、見つけるのは難しい。だが、飼育下の個体はまだ見ることができる。

とまり木にとまるフィリピンワシ。フィリピンのダバオにあるフィリピンワシ財団の森林保護区で撮影。野生に残るつがいは約400組だけだ。この財団はフィリピンワシの保護や繁殖を行い、アポ山国立公園などの山の生息地に帰している(PHOTOGRAPH BY GAB MEJIA)

「1970年代に保護プログラムが開始されてから、86羽を救ってきました」とフィリピンワシ財団の研究・保護ディレクター、ジェイソン・イバネス氏は話す。

保護の理由には、地元の人々の罠(わな)や銃による負傷も含まれるが、フィリピンワシを苦しめる主な要因は森林破壊だ。1組のつがいは、40~110平方キロの行動圏と営巣用の高い木を必要とする。一方、フィリピンの森で手付かずのまま残るのはわずか35%だけだ。

また現在、フィリピンワシ財団は33羽のフィリピンワシを保護している。繁殖の試みを通じて、新たなひなを野生に放したいとスタッフは考えている。

フィリピンワシは、かつては南米のオウギワシやアフリカのカンムリクマタカなど、世界中で見られる他の大型のワシの近縁種だと考えられていた。しかしその後のDNA研究で、そうした大型のワシとは遠縁であることが明らかになった。つまり、フィリピンワシは独自のカテゴリーに分類されるのだ。

「フィリピンワシは、進化の過程で生み出された唯一無二の生物なのです」とイバネス氏は話す。

独自性というものが、この雄大なフィリピン諸島全域に響き渡るテーマのようだ。

「フィリピンは、本当に島と山と湿地でできているのです」とメヒア氏は語る。「見に行くのが砂浜に生息するオオトカゲだろうと、森に住むメガネザルだろうと、フィリピンが生物多様性の豊かな『メガ・ダイバーシティ国家』と呼ばれるゆえんを目の当たりにする心の準備をしておいてください」

(文 JASON BITTEL、訳 牧野建志、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年7月19日付]