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児童書『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』350万部ヒットの理由

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児童書ジャンルから、累計350万部超えの大ヒットシリーズが誕生している。『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』(偕成社)だ。廣嶋玲子氏による、主に小学校中学年以上の子供を対象とする児童書で、2021年4月に出た最新刊(第15巻)は初版15万部。通常は、初版5000部ほどの児童書にあって桁違いの数字だ。

タイトルになっている「銭天堂」は、選ばれた人の前にだけ姿を現す、神出鬼没の奇妙な駄菓子屋。赤紫の着物を着た妖しげな店主・紅子が、訪れた客の悩みや願いをかなえる、不思議な力を持った駄菓子を薦める。客がそれを手にすることで、物語が展開する1話完結の短編連作だ。各巻に6~7話が収録されている。

作者の廣嶋氏は、ジュニア冒険小説大賞を受賞した『水妖の森』(岩崎書店)で06年に本格的に作家デビュー。『もののけ屋』シリーズ(静山社)や『妖怪の子預かります』シリーズ(東京創元社)など、多くのファンタジー小説が人気シリーズになっているが、今まで手掛けてきた作品の中でも『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』は突出したヒットだ。

作品誕生のきっかけは、廣嶋氏が、本作の表紙絵や挿絵も手掛けるイラストレーターのjyajya(ジャジャ)氏による「猫蛙町」というイラストシリーズを見たことだった。その中で描かれた、横丁の絵にインスピレーションを得たという。「たばこ屋や薬屋のレトロな感じに心惹かれて、ちょっとした階段や曲がり角の風景にも、何だか不思議なものを感じました。こんな昭和レトロな横丁に、もし不思議な駄菓子屋があったら? 店主は『ござんす』口調でしゃべる巨体のおばさんがいい、名前は紅子、とインスピレーションが湧き、連鎖的に発想が降りてきたんです」(廣嶋氏)

13年に偕成社から第1巻が刊行され、以来ほぼ年に2冊ずつ巻を重ねている。廣嶋氏によれば、児童書シリーズでは巻を重ねていくスピードは重要だ。「読者が面白いと思っても、関心があるうちに次の巻、次の巻と続けて出せないと、成長期の子供はどんどん興味の対象が移り、作品から離れていってしまう」(廣嶋氏)

偕成社で担当編集者を務める早坂寛氏がヒットの手応えを感じたのは、おおよそ3巻まで刊行が進んだあたりだった。「当初は普通の児童書と変わらない動きだったが、子供たちの間で口コミが広がって、愛読者カードに占める『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』の割合が増えていき、定期的に重版がかかるようになった」(早坂氏)

当初は口コミ人気の静かなヒットだったが、一挙に認知度が高まったのは、第1巻発行から5年後、「小学生がえらぶ! "こどもの本"総選挙」(ポプラ社の創立70周年事業として始まり、現在はNPO法人こどもの本総選挙事務局が運営)がきっかけだ。シリーズは当時既に8巻目まで刊行されていた。18年5月に発表された第1回(応募総数12万8055票)で9位となりベストテン入り。認知度が上がったことで、第2回(20年5月発表、応募総数25万3399票)では、4位にランクインした。

ストーリーの特徴は、シリーズ各話に登場する不思議な駄菓子が、使い方次第で客を幸にも不幸にも導く点だ。客が欲や邪悪な思いに流されて、説明書きにある忠告を無視したり間違った使い方をしたりすれば、手痛いしっぺ返しに遭う。先の読めないハラハラ感と、時に人間の欲望の恐ろしさも描く毒っ気のある展開で、読み手を引き込む。しかし、人気の秘密はそれだけではない。

「不思議な駄菓子」の発想法は2パターン

異例のヒットとなった理由は、まずは何と言っても「不思議な駄菓子」の描写が子供心をがっちりとつかんだことだ。

食べるとヤマ勘がさえてテストに出る問題が分かる「ヤマ缶詰」、時間が守れるようになる「いそげもち」、心がきれいになる「虹色水あめ」など、駄菓子屋が決して身近な存在ではない今の世代の子供たちを、願いをかなえる不思議な力と独特のネーミング、カラフルな描写でわくわくさせている。

表現も秀逸だ。例えば、人魚のように泳ぎが上手になる「型ぬき人魚グミ」は、「炭酸のようなしゅわしゅわとした刺激があって、マンゴーのような甘くて濃厚な味がする」。欲しいものを堂々と欲しいと言えるようになる「ほしいイモ」は、「おもちのような弾力があった。かめばかむほど、なんともいえない甘みがあふれてくる」など、生き生きと味覚に訴えてくる。作者の廣嶋氏は、「子供たちがお菓子をリアルに想像できるよう、食感や味、香りの表現には特に気を配っている」という。

これまでに登場している駄菓子は130種類以上。廣嶋氏は、2方向からのアプローチで駄菓子を発想しているという。

1つは、登場人物にはどんな悩みがあり、それを解決するどんな力が欲しいのか、悩みの側から考える方法。例えば、浪費癖のあるキャラクターは、もっとけちけちと倹約できるようになりたい。「けちんぼ」という言葉に合う食べ物は何か、「けちんぼ・さくらんぼ」だと発想する。

もう1つは、お菓子の側からの発想だ。例えばマカロンなら、銭天堂の駄菓子としてふさわしい名前は何か、と考える。響きの良さから「コロン・マカロン」という語を思いつき、コロンだから、体からいいにおいがするような話を作ろうと考えていく。「今後、こんなお菓子をエピソードに書きたい、というネタはまだまだあって、アイデアに困ったことはない」(廣嶋氏)という。

なぜ、児童書でアラフォー男女の恋の話を?

もう1つのヒットのカギは、不思議な力を持つ駄菓子を買う客たちそれぞれのストーリーに、児童書らしからぬリアルで「大人っぽい」視点を取り入れている点だ。

例えば、2巻に収録されている「おもてなしティー」は、アラフォー男女の恋を扱った物語で、切ない思い出とすれ違いの甘酸っぱさがある一話だ。「大人っぽすぎるかとも思ったが、意外に評判が良く、『息子が一番欲しいのはおもてなしティーだそうです』というファンレターも頂いた。伝えようとすればちゃんと分かってもらえるのかと驚きだった」(廣嶋氏)

そうした声も受けて、以降の巻でも各話の主人公となる客は、引きこもりの21歳や43歳の主婦、定年を迎えた65歳など、子供とは限らない幅広い世代を登場させている。職場の同僚同士の確執など、大人の世界の生きづらさや醜さも描く。年代や立場の異なる様々な登場人物たちが、それぞれに悩みや欲望を抱えて銭天堂を訪れる。「大人目線の悩みも、大人ってこんなことで悩んだりするのだと思って読んでもらえたらいい」(廣嶋氏)とあえて取り上げ続けている。

編集担当の早坂氏も、「当初は不安もあったが、大人の世界の視点で書かれたエピソードがあるというのは、児童向け作品としては珍しい。それが良い結果につながったと感じている」と語る。

意外な効果も生んだ。子供が「大人の世界に引かれる」現象が起きただけでなく、実際の大人も、「娘に向けて買ったつもりが、私のほうが引き込まれた」、「もうすぐ70歳の私もすっかりはまってしまい、我が孫たちに読ませようとさっそく全巻購入」など、子供のみならず幅広い世代ではまる人が相次ぎ、読者層の拡大にもつながったのだ。

近年、子供たちに人気の作品を見ると、『ざんねんないきもの事典』(高橋書店)や『5分後に意外な結末』シリーズ(学研プラス)など、長編よりは単発で読めるものや、「ショートショート」に近いものが好まれる傾向にあるようだ。『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』の短編連作の形は、日常的な読書習慣が無い子供にとってもとっつきやすく、巻をまたいだストーリー展開もあるので、長編好きの子供にとっても満足感がある。偕成社には「この本のおかげで本が好きになりました」(11歳)などの声も寄せられており、シリーズをきっかけに読書が身に付いた子供も多い。

販売面での工夫も光る。1巻目から本の帯で表紙のイラストを隠すという、児童書のセオリーを無視した思い切った仕掛けを行った。「児童書では、主人公がこちらを向いた表紙の作品が多くを占めるが、太い帯で主人公を隠すことで、中はどうなっているのか興味を持ってもらおうと考えた。社内でも反対意見はあったが、1巻目ということもあり、まずはやってみようとうことになった」(早坂氏)

いかに子供に響く「引っかかり」を作れるか

さらにヒットを伸ばす要因になったのがテレビアニメ化だ。20年9月からNHK Eテレ(毎週火曜、午後6時45分~)で放映が始まると、発行部数はそこから約150万部伸びた。

アニメシリーズを制作している東映アニメーションで、2代目番組プロデューサーを務める伊藤志穂氏は、アニメ化の理由についてこう語る。「1話完結で、様々な不思議な力を持つ駄菓子が登場する『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』の世界には、長く愛され続けるシリーズになる、高いポテンシャルがあった。今は、子供向けのコンテンツがあふれる中で、いかに子供たちが引っかかりを感じるものを作るかがポイントになるが、児童書ではあっても、子供を意識しすぎない作風が他には無い魅力と感じた」(伊藤氏)

アニメ版のオープニングは、夕暮れの「逢魔が時(おうまがとき)」を意識した色使いで妖しい世界に誘い、エンディングはストーリーが怖い結末で終わっても、カラッとした後味になるよう、アップテンポの楽しい映像に仕上げた。「毎回、幸か不幸かどちらに転ぶのかというドキドキを楽しんでもらえるよう、1話9分の中のどこにヤマ場をもってくるのかが、シナリオ上では常に議論になるところ。特にひやっとする結末の回は視聴者の反響が大きい」(伊藤氏)。アニメ離れしやすい年齢に差し掛かる中・高学年の小学生にも、子供っぽいと思われない演出を工夫している。

ヒットはさらに、国内にとどまらず海外にも及んでいる。書籍は「韓国、台湾、ベトナムで翻訳出版され、特に韓国では9巻まで刊行の20年末時点で既に60万部のヒットになるなど、予想をはるかに上回る反響に驚いている」(早坂氏)。東映アニメーションも、アニメのアジア展開を視野に入れているという。大人もハマる妖しい駄菓子屋の世界は、さらに広がっていきそうだ。

(フリーライター 中城邦子)

[日経クロストレンド 2021年7月28日の記事を再構成]

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