フランスでは、食事を作る「手間」や食事の「内容」よりも、大切な人たちと食卓を共にする「時間」により価値を置いているように感じるのだ。

コロナがきっかけ? 冷凍ギョーザが大人気の日本

日本でもコロナ禍をきっかけに、冷凍食品に対する捉え方が変わりつつあるのではないか。その変化の象徴が、「冷凍ギョーザ」だ。日本冷凍食品協会が今年の2月に行った調査によると、1年前に比べ利用頻度が増えた冷凍食品は男女ともに「ギョーザ」が1位、約4割を占めた。

「当社調べによると、これまで冷凍食品のファーストエントリーメニューは冷凍うどんでしたが、2020年に冷凍ギョーザに変わりました。冷凍ギョーザ市場も10年度から20年度の期間で、約2倍に膨れ上がりました」

こう教えてくれたのは、味の素冷凍食品(東京・中央)の担当者。同社の「ギョーザ」は、03年より18年連続売上日本一を誇るロングセラー商品で、年間1億パック以上を売り上げている。

今秋リニューアルする、定番の「ギョーザ」(味の素冷凍食品提供)

昨今の冷凍ギョーザ人気を、同社はこう捉える。これまで冷凍食品を「手抜き」だと感じていた生活者も、フライパンでひと手間かける冷凍餃子を初めて使用したことをきっかけに、冷凍食品を前向きにとらえるようになったのではと。簡単・手軽ではあるが、フライパンで焼くという「ひと手間」が必要なところが、かえって今まで冷凍食品を使うことをちゅうちょしていた層にも響いたのだろう。

そこで同社は多様化する冷凍ギョーザへのニーズに対応できるよう、この8月よりさらにラインアップを強化し、自宅で本格的な専門店品質を味わえる「黒豚大餃子」などを新発売する。また、「誰でも手軽に・食べたいときにすぐ食べられる」ニーズにも対応すべく今年2月に発売した「レンジで焼きギョーザ」は、レンジ調理なのに焼き目が香ばしく、ジューシーな味わいのギョーザが食べられると好評で、地域限定から全国発売に切り替えるという。

ちなみに、フランスでも味の素の冷凍Gyozaは大人気だ。当地ではギョーザのことをその形から「Ravioli(ラビオリ)」と呼ぶのが一般的だが、同社によれば、「日本の食文化を世界に広げていきたい」という思いのもと、欧州でも「Gyoza」の名称で発売したのだという。

フランスでも大人気な味の素のGyoza。アペロに出すと、あっという間になくなってしまうのが常

「『Gyoza』は現地の料理雑誌でグランプリを受賞するなど、日本式ギョーザ(焼きギョーザ)のパリッとした皮の食感と中身のジューシーなおいしさがフランスでも認められています。最近では『Beef Gyoza』(家庭用)や『Katsu-curry Gyoza』(業務用)が、その目新しさと圧倒的なおいしさで高く評価されています」。(同社担当者)

ビーフにカツカレーのGyoza!? これまた気になって仕方ないが、筆者が以前店頭で発見して驚いたのが、「Apple Gyoza」。同社によれば、欧州の嗜好・文化の背景を基に開発された製品で、ベジタリアンの人々にも人気なのだとか。フランスでもGyozaがSushi(すし)やYakitori(焼き鳥)のような地位に並ぶ日がくることを筆者はひそかに願っている。

Apple Gyoza(味の素冷凍食品提供)

冷凍食品の活用は手抜きではなく「手間抜き」

ところで、昨年の秋頃、SNSを中心に話題になった「ポテサラ論争」があったが、それに続く「冷凍ギョーザ論争」をご存じだろうか。

ポテサラ論争とは、ポテトサラダを買おうとした子供連れの女性が「母親ならポテトサラダくらいつくったらどうだ」と男性から言われるのを目撃した、というつぶやきに端を発するものだ。

対して冷凍ギョーザ論争は、「夕食に冷凍ギョーザを出したら、子どもは喜んだけど、旦那に『手抜き』と言われた」というツイートから始まったものだが、当該ツイートに対して同社はこう切り返した。手抜きでなく、「手間抜きですよ」と。

「日本ではまだまだ『冷凍食品=手抜き』との認識が多く、手作り信仰の強い日本の文化の中では、冷凍食品の本質的な機能が認められていないなと感じました。冷凍食品を使う事は、時間の創出であって、愛情がそがれるものではないのです」(同社担当者)

先日発表された、ネット旅行予約大手の米エクスペディアが世界12地域1万5千人を対象に実施した調査によれば、日本人は休暇を取ることで「毎日の料理から解放されたい」と思う割合が一番高かったという。ちなみにフランス人は突出して「毎日同じ道を歩くこと」から解放されることを望むとのこと。おのおのの国事情がよく現れた結果だなと感じる。

何に重きを置くかは人それぞれ。ギョーザを皮からつくり、包丁を両手で握りX JAPANのYOSHIKIのドラムさばきばりに自ら豚肉をミンチにする筆者のような「料理バカ」がいてもいいし、その時間を自らの趣味や家族とのだんらんにあてたっていい。誰にでも平等にある限られた「時間」をどう充実させるか、冷凍食品にそのヒントが隠されているのかもしれない。

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パリ在住ライター ユイじょり

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