400社以上の買い手情報、サイトに公開

及川さんも大手M&A仲介会社に依頼できず、結果的に6億円の大損にもつながった。後継者不足が深刻化する中、中小企業のM&A市場は急成長している。及川さんの父親も「おまえが事業を継いでくれないか」と言ってきた。アナログの不動産事業には興味はなかったが、今後はベンチャー企業向けのM&Aの需要が高まると考えた。

そこでネットを活用し、格安でM&A仲介サービスを提供する会社の設立を思いついた。既存のM&A仲介会社は会社を売りたいという側の要望を聞き、その案件を買い手の企業に持ち込むというパターンが多かった。無論、クローズドな(閉ざされた)空間で行われる。

しかし、M&Aクラウドは買い手側の情報をオープンにし、就職や転職のサイトのようなエントリー型M&A仲介サイトを構築した。買い手側の企業の特徴や情報、M&Aの方針や戦略、実績などを全て公開している。

すでにイオンやエイベックス、freee(フリー)など400社以上が買い手側として掲載されている。「私は会社売却の際に買い手先の有力企業を見つけるのに苦労した。このサイトに掲載している企業の半数は上場企業。一般の起業家が信用できる情報に簡単にアクセスできるのが特長」という。

及川さんは「我々は就職や転職と同じ言葉で対応しています。例えば、6月には800件以上の(売り手側企業からの)エントリーがあり、200件が面接した。4社以上と面談した場合、約20%が決まります」と話す。買い手側の掲載料は65万円。成約した場合は原則売買金額の3~5%程度の手数料を受け取る仕組みだという。

新型コロナウイルス下で一段とニーズが高まっている。同社のサイトの仲介で、ランサーズは福岡県のスタートアップ企業を買収したが、「全ての手続きをオンライン上で終えた」という。会社の売買という一大事業をネットで完結したわけだ。

起業から5年余り。掲載企業や成約件数は着実に伸びている。「起業家だって転職したい。会社を売り、別の事業をしたい人はどんどん増えている。M&A市場はまだまだ伸びる。将来は時価総額10兆円の会社にしたい」と強調する。若手起業家が急速に増える中、ベンチャー企業向けのM&A仲介サービスの需要も大きく伸びそうだ。

(代慶達也)