「メールの正解」を求める人が増えている
―― コロナを機に、メールスキルを学ぶニーズが増えている印象はありますか。
平野 当協会への研修依頼は約2倍に増えています。対面で営業をしていた人がデジタル営業に移行したため受講するケースが増えた印象ですね。業種では医師と対面で折衝していた医薬品業界や、これまで対面での営業が多かった不動産業界が目立っています。
―― ニーズ上昇の背景はどんなものでしょうか。
平野 ビジネスメールの社員研修があるのは9.48%と、学ぶ機会が少ない。メールのスキルアップが重要だと感じている人が53.44%もいるのに、需要と供給がマッチしていない。だから自分のメールに不安を感じてしまうのだと思います。


会社で教えてもらう機会がなく、上司に聞いても分からない。正解を求めてネット検索する人が増えています。また、私が取材を受ける場合、文例やテンプレートの提示を希望するメディアが多いですね。それだけ需要があるということだと思います。
受け手側としては、自分で答えを導き出すことができずにメディアの情報や文例集をうのみにしてしまう。しかし、記事も文例集も、「メールの正解」ではなくあくまでも「一例」です。その情報自体を精査して、送る相手に合わせて変化させる対応力が必要です。メールの作法は時と場合により違うからです。
受領の連絡メールを、用件がないなら送ってこないでほしいという人がいます。一方、必ず受領連絡が欲しいという人もいます。自分の中でメールのやり取りの経験値を蓄積して、相手によって作法を変えることが大切です。
今は失敗したら一発退場のような雰囲気がないでしょうか。その失敗に対する恐れがあるのでしょう。だからまず、テンプレートや正解を欲しがるのかなと感じています。
―― 自分で正解を見定めていく力はどのように養うとよいでしょうか。
平野 本やサイトなどで最低限の情報を仕入れて、それをうのみにし過ぎないで実践する。相手からのリアクションを受けてパターンを整理し、チューニングしていくことです。
私の場合、病院の医師や大学教授など「先生」と呼ばれる人にはかなり堅く書きます。一方、同じ「先生」の属性でも同世代だったら少しフランクにするなど、相手によって変化を付けます。また、メールをやり取りしていく中で、関係がほぐれてくる場合もありますよね。
あとは、定型文の意味をしっかり考えること。「ご確認お願いします」は、何に対してご確認お願いしますと言っているのか。「ご確認のほど」の「ほど」はどんなときに用いるのか。言葉一つひとつの意味を理解してメールを送ると、メールの内容がはっきりします。
正解のメールを送ることが目的ではなく、内容を伝えることが目的です。私は正しい日本語を使うよりも、伝わる日本語を使ったほうがいいと思いますね。