「人」と「人」としてボーイズと向き合った得難い1カ月

高い技術を持つオーディション参加者のなかには、大手事務所で育成された経験のあるメンバーも少なくないが、なかなか自らの壁を越えられずに苦しみ、悩むケースもよく見られた。

「彼らを見れば見るほど、そして自分の経験からしても、日本の育成システムはあまり健康的ではないと感じますね。日本にも芸能系のスクールはたくさんありますが、歌の場合、スクールによって“正解”の発声法や歌唱法を作ってしまい、そこに向けて矯正していくケースが少なくないように感じます。人によって適した発声法があるにもかかわらずです。

サッカーにたとえるなら、インサイドキック(足の内側で蹴るキック。威力よりコントロールを重視する場合に使われることが多い)しか練習してきていないようなもので。遠くにボールを蹴らないといけないときも、インサイドキックで飛ばそうとする。だからピッチ(音程)もブレるし、声も遠くに飛ばせないし、滑舌も悪くなる。それって彼らのポテンシャルが低いわけではなく、変な癖がついているからなんです。真面目に取り組めば取り組むほど、悪い方向に向かってしまう。

ダンスに関しては、好きな子は自主的にほかのスクールにも通うし、好きでいろいろ吸収していくからあまり問題ないのですが、歌に関してはどう学んでいいか分からないから、真面目な人ほど先生がすべてになりやすくもあります。何年も価値観を更新できていない先生が『これが正しい発声です』なんて教えてきたもんだから……癖がなかなか抜けない参加者もいて、何やってくれてんだって思いましたよね。

今、自分には幾ばくか育成の適性があると思っています。僕の場合、トレーナーをきちんと事務所につけてもらった経験がなく、自ら教えてくれる人を探すしかなかったんです。試行錯誤を重ねて、成長には時間がかかったと思います。

そのぶん育成段階にある人の成功と失敗のケーススタディーはたくさん持っていると思います。実体験と照らし合わせて、『今はここを頑張りすぎてはいけない』『ここを強化すべきだろう』『魅力的に見えないのは、この要素が影響しているのではないか』などが分かる。

自分で分からないときに、相談すべき専門家もいろいろ知っている。あと、課題なり修正なりのやり方を、人に伝えることもできる。13歳の少年から、楽曲リリース経験のある23歳の青年まで、人と人としてきちんと向き合うために1カ月を共に過ごしたことは、得難い経験と知見を僕にくれたと強く感じています」

SKY-HI(日高光啓)
 1986年12月12日生まれ、千葉県出身。ラッパー、トラックメイカー、プロデューサーなど、幅広く活動する。2005年AAAのメンバーとしてデビュー。同時期からSKY-HIとしてソロ活動を開始。20年にBMSGを設立し、代表取締役CEOに就任。「THE FIRST」のテーマソング『To The First』が配信中。

(ライター 横田直子)

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