2021/8/14

ブルーオリジンはまだ搭乗券の価格を発表していないが、ヴァージン・ギャラクティックの方は1人25万ドル(約2750万円)との広告を出している。既に600人以上が予約済みで、価格は今後引き上げられる予定だ。

弾道宇宙旅行市場の将来性について研究するクリステンセン氏は、「いくつもの調査を重ねた結果、十分な需要があるとの結論にいたりました。つまり25万ドル前後であれば、少なくとも年間数百人の旅行客が見込めるということです」と話す。「もし価格が大幅に下がれば、需要は数千人にまで増加する可能性もあります」

最初の乗客が白人の大富豪で占められるであろうことはほぼ間違いない。米スミソニアン国立航空宇宙博物館の宇宙史家ジェニファー・ルバッソー氏が指摘するように、富裕層はこれまでも、南極や深海の底、エベレストの頂上など、高価でエキゾチックな旅に挑戦してきた。

だが宇宙は、地球上の旅先とはわけが違う。特に、この先商業ミッションが、単なる弾道飛行から、未来にずっと続く地球外の設備へと移行していくとなると、その意味合いが変わってくる。

「誰が宇宙へ行けるのか。それは何を意味するのか、私たちについて、またこれらの人々を宇宙へ送り出す社会について何を語っているのか。彼らは本当に、宇宙が全人類のものであると信じているでしょうか。宇宙旅行のユートピア的な発想は、いったい何に基づいているのでしょうか」と、ビム氏は問う。

ブルーオリジン初の有人飛行の乗組員。左から、マーク・ベゾス氏、ジェフ・ベゾス氏、オリバー・デーメン氏、ウォリー・ファンク氏(PHOTOGRAPH BY BLUE ORIGIN)

そうした解答は、商業的な弾道飛行が順調に行けばいずれ得られるのかもしれない。まだ生まれたばかりの産業だ。ビム氏をはじめとする専門家たちは、搭乗者名簿が今後どのように進化していくのか、大富豪ではない人々にも裾野を広げようとする努力がなされるのかを見守っていく必要があると指摘する。

一方で、起業家たちが期待するほどの需要が生まれず、商業宇宙旅行の事業は失敗に終わる可能性もある。そうなったとしても、宇宙で生活するというビジョンが消えることはないだろう。

これまでも、人類は夢を描き続けてきた。同時に、宇宙に築く足場は地球から伸びていることを、こうした壮大な夢を描く人々は認識する必要があると、ビム氏は言う。将来宇宙ステーションの中を遊泳しているであろう人も、火星で青い日没を眺めているであろう人も、地球上の問題から逃れることはできない。

「宇宙に行って、それが変わるわけではありません。地球上に存在する問題は全て宇宙でも再び生じ、強まるものです。その点を理解する必要があります。バラ色の眼鏡をかければ解決するということはありません」

(文 NADIA DRAKE、グラフィック TAYLOR MAGGIACOMO、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年7月26日付]

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