視界不良の混迷期 果たしてリーダーは何をなすべきか『知徳国家のリーダーシップ』

先行き不透明な状況であればこそ指導者のリーダーシップが問われている
先行き不透明な状況であればこそ指導者のリーダーシップが問われている

政治学と経営学の当代きっての論客が語り合う対談集である。今回紹介する『知徳国家のリーダーシップ』は明治期から現在まで8人のリーダーを取り上げ、近代国家建設と太平洋戦争後の復興の2つの視点で、あるべきリーダー像について論じ合う。昨今の新型コロナウイルスの感染拡大で社会・経済の見通しが不透明な、いわば「国難」に直面する状況だからこそ、指導者のリーダーシップが問われる。ニッポンのリーダーはこれまで危機打開のためどう考え、いかに行動してきたか。専門領域を超えた二人の論者が指摘する問題の数々は、過去に学び、これから先を読み解いていく上で重要な提言となるに違いない。

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本書によると著者の一人、北岡伸一氏は東京大学名誉教授で国際協力機構(JICA)理事長。1948年生まれ、東大法学部、同大学院法学政治学研究科博士課程を修了後、立教大や東大で教授を務めました。在ニューヨーク国連代表部大使、国際大学学長なども歴任しています。『自民党―政権党の38年』『明治維新の意味』など多数の著書があります。

著者の北岡氏(写真右)と野中氏

対する経営学者の野中郁次郎氏は一橋大名誉教授、米カリフォルニア大バークレー校特別名誉教授。1935年に生まれ、早大政治経済学部卒業後、カリフォルニア大経営大学院(バークレー校)で経営学博士を取得しました。旧日本軍の作戦について考察した『失敗の本質―日本軍の組織論的研究』(共著)で知られています。

物語を描くように戦略を構築する

本書で取り上げられるリーダーは大久保利通、伊藤博文、吉田茂、中曽根康弘、渋沢栄一、益田孝、本田宗一郎、稲盛和夫の8人。政治家あり、実業家・経営者ありと顔ぶれはさまざまです。身分社会のサムライ国家だった日本を脱し、欧米に追いつけ追い越せとばかりに急速に近代国家建設を進めた大久保や伊藤。会社を母体とした資本主義経済の礎を築いた渋沢や、三井物産を創業した益田。戦後も、復興に尽力した吉田や1980年代にかじ取りを務めた中曽根、経営者からもホンダ創業者の本田や京セラ創業者としてだけなくJAL再建に手腕を振るった稲盛。それぞれ時代背景や立場に違いはあるものの、8人に共通するのは「前例のない状況に果敢に向き合い、自ら決断し、能動的に考えて人を動かし、大きな課題を解決していったことである」と北岡氏は指摘しています。

国家にせよ企業にせよ、かじ取りに必要なのは戦略。野中氏は「大きな筋書き」と「行動規範」が重要だといいます。無謀な作戦に突入した旧日本軍の行動を引き合いに、「情報の不十分さ」と「全体の戦略のなさ」が「失敗の何重奏」を生み出したという考えで二人の対談者の認識は一致しています。

それには何が必要か。野中氏が本書で一貫して主張するのが、「現場・現物・現実」のいわゆる三現主義。現場を直視せず、頭の中の考えだけにとらわれていては、正確な判断や行動はできないということでしょう。こちらは国家運営や企業経営という大所高所だけでなく、手足となって働く現場サイドでも共有できる見方ではないでしょうか。

二人の意見で興味深いのは、対面の重要性をともに指摘していることです。昨今は新型コロナ禍でリモートワークが広がっていますが、毎日朝会で意見を交わす、きのうはどうだったかと反省する、きょうの問題は何なのかと話すことが重要だと。「やはり『出会い』を大切にして、共感をベースに、徹底的に議論するとか、仕事に夢中になって時と我を忘れるとか、そういう主観的時間を生きることが大切です。それを客観的な時間で切って、『働き方改革ですから、もうお時間でございます』というのは、それはないだろうと思っています」(56ページ)という野中氏の発言に共感する向きもあるかもしれません。

野中 結局、最近、戦略とよく言いますが、物語を語るというのがいちばん実践的なのです。戦略を構想し、実践を促す物語は、筋書きと行動規範の2つがなければいけません。まず、大きな筋書きやビジョンが示され、次に何をなすべきか、という行動規範が組織に身体化されて、まさにスクラムのように一体で動けるかどうかが、現実に有効な戦略的実践知なのです。結局は戦略とは物語であると思います。
(第1部 いま、改めてリーダーシップを問う 41ページ)
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