自分が世に出した事業で
社会課題を解決できる
だから起業は最高に面白い

――最近の案件で印象的だったものはありますか?

たくさんありますが、例えば「ころやわ」という床材を作っている会社です。この床材は普段は固いのですが、人が転んだ時だけ柔らかくなって衝撃を吸収し、その後また固い床に復元するのです。

日本では毎年100万人の高齢者が転んで骨折していて、その後寝たきりになったり、骨折がきっかけで亡くなったりしています。この問題を解決するために、高齢者が転んだ時に床が柔らかくなって、骨折しない程度まで衝撃を減らせればいいという発想で作られた床です。ピッチ(短いプレゼン)を聞いて感動し、その場で出資を決めました。

――有望な投資先を見極めるに当たり、重視するポイントは。

条件やルールに沿って判断するというより、「感じる」という方が近いですね。ある人やコト(事業)に出合った時、「この人物、この事業にかけよう」と瞬時に情熱を注げるかどうか。ただ一方で、ほれた人物や事業がうまくいかなくても、決して短気を起こさないことも重要です。うまくいかなくて当たり前と割り切り、じっくり伴走していく構えが大切です。

お金についても同じようなことが言えます。投資家であれば当然、その事業にお金が付いてくるか、平たく言えば「カネのにおいがするか」には敏感でなくてはいけません。でも一方で、カネに執着していては駄目なのです。事業がうまくいかず、投資したお金が溶けてなくなることもあり得ます。一旦入れたカネは、その存在を忘れるぐらいの思い切りが必要だと考えています。

――それだけのリスクを負って新規事業に関わり続ける理由は?

最高に面白いからです。自分が素晴らしい、面白いと思った商品やサービスを自分の手で世の中に出すことで、社会課題が解決したり、人を幸せにできたりするのが起業の魅力です。そして、社会や人の暮らしを変える力を持った事業には、お金が付いてきます。

この1年は、コロナ禍によって人々の暮らしが一変し、様々な不便や不満が山積しています。見方を変えれば、人々の「不」を解決できる新しい商品やサービスのニーズが至る所にある。新たな商機と勝機があふれた時代とも言えます。だからこそ、多くの人の背中を押したい。

いずれ起業や独立をしたいと思っている人には、今すぐ動き出すことを勧めます。ただし間違っても、やりたいこともない中、ただ会社をつくるという手段先行はしない方がいい。会社を辞める前に、小さな挑戦と失敗を繰り返しながら経験値を上げておくことが大切です。週末のボランティアでも、友人の事業の手伝いでもいい。大きく構えず、小さな経験を着実に積み重ねていくことで、動く筋力を鍛えておくのです。そうしているうちに、チャンスが巡ってくる。

終身雇用制度が象徴するように、日本では高度経済成長期以来、大きな組織にとどまることが有利とされてきました。でもこれだけ進化圧が大きい時代にあっては、動かないことはリスクだし、とどまることは後退を意味します。やりたいこと、挑戦したいことがある人にはぜひ、今すぐ一歩を踏み出してほしいと思っています。

『起業は意志が10割』
守屋実著/講談社/1650円(税込み)
 ネット印刷のラクスルや訪問看護のケアプロなどの起業や企業の新規事業立ち上げ支援を数多く手掛け、「起業のプロ」として知られる著者。コロナ禍で既存のマーケットが瞬間蒸発する一方、新たな社会課題やニーズが次々と生まれる現在は、商機と勝機があふれる時代だと指摘する。自らの豊富な経験に基づき、起業で押さえるべき「9つのポイント」や心得を解説。社会課題の解決につながる事業の例やありがちな失敗を具体的に示しつつ、起業を成功に導くためのエッセンスを熱く説く。
もりや・みのる
 1969年生まれ。明治学院大学在学中から起業を経験。卒業後ミスミに入社、新規事業の開発に従事。2002年にエムアウトを創業、複数の起業を手掛ける。10年に独立して守屋実事務所を設立、新規事業創出のプロとして活動する。ネット印刷のラクスルの立ち上げに参画、取締役や副社長を歴任。博報堂、リクルートホールディングス、JR東日本など大手企業の新規事業アドバイザーや宇宙航空研究開発機構(JAXA)の上席プロデューサーを務めるなど、幅広い業種で新規事業立ち上げに携わる。エンジェル投資家としても活躍。

撮影/工藤朋子 取材・文/佐藤珠希

[日経マネー2021年7月号の記事を再構成]

起業は意志が10割

著者 : 守屋 実
出版 : 講談社
価格 : 2,220 円(税込み)

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