アニメの新しい可能性

Wabokuは、ずっと真夜中でいいのに。の『秒針を噛む』やEveの『お気に召すまま』などのMVで知られ、キャラクターに心情を乗せたドラマを描ける上、独自の世界観で若い世代に人気を誇る。「テレビや映画とは異なる文脈でアニメを作ってきたクリエーターが長尺の映像を作ったら新しいものができるのでは」(古橋氏)との考えから、企画が立てられた。

同じ頃、ソニー・ミュージックレーベルズの斎藤亮太氏は、育成していたシンガーソングライター熊川みゆの活動を模索中だった。「アニメ『約束のネバーランド』のタイアップで、Eveさんが楽曲を書かれるかもしれない、その際に歌えるボーカルを探していて、熊川みゆが歌唱に関われるかもしれないとなりました。その後に、SMEのヘッドクォーターの同タイアップ担当の方から、別で動いていた『BATEN KAITOS』の情報を紹介され、一緒にやりましょうということで、全てを内包するように熊川みゆもMyukというソロプロジェクト化してデビューに至ります」

SME全体でネットクリエーターを発掘・サポートするプロジェクトを多数展開していたことや、WabokuとEveは『トーキョーゲットー』のMVやライブのアートワークなどで以前から盟友でもあったことから、会社が異なる2つのプロジェクトが合流することとなった。

今後もWabokuを核にストーリーを紡ぎ、拡張していくという。

「BATEN KAITOSは自由度が高い企画なので、いろいろなIPの展開が考えられます。認知や実績を積み上げ、何回も繰り返し見たくなる映像作品や残っていく物語に昇華していきたいと思っています」(古橋氏)

「個人的には普段できない小説とかMVから派生したアニメーション以外のことにも可能性があると思っていて、今は展示を準備中です。世界観を共有するもっと多くの人に参加してもらったり、さらに、ソニーミュージックを代表するIPに育てていく使命も感じています」(斎藤氏)

アニメMVの流行やインディーズのアニメクリエイターなど新たな才能の台頭が、アーティストの表現や活動を拡張していく流れと重なった。ネット的手法のクリエーティブを大手メーカーが補完する。それを「次世代の看板作品としてヒットさせるのが、僕たちがやる理由です」(齋藤氏)。

(ライター 波多野絵理)

[日経エンタテインメント! 2021年7月号の記事を再構成]

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