
実は、この1年ほど、レトロブームが来ている。70年代の純喫茶を模した店が人気だ。クリームソーダが600円もするのに、だ。若者には新しく、40~50代には懐かしい。そんなところを狙っているのだろう。
ジンギスカン店が増えているのは、こうしたレトロブームとも関係がありそうだ。今から20年前の2001年、BSE(牛海綿状脳症)が国内で初めて発生し、牛肉を使った焼肉店には、客がまったく来なくなり、閉店が相次いだ。あの吉野家ですら、一時は牛丼の提供をやめたほど。今のコロナ禍の飲食店の困窮ぶりと通じるところがある。
閉店した焼肉店跡地に入り込んだのが、既存の設備を使えるジンギスカン。産地とビールメーカーの戦略で、焼肉店が次々とジンギスカン店に変わった。それは驚くほどの速さだった。結局、世間がBSEを忘れるとジンギスカンは廃れてしまったが、20年がたち、当時20~30代だった若者は今、40~50代。ラムは食べた経験がある。一方、若者には新しい体験だ。世代は巡る。

さて、ここまで来て、酒の話が皆無だったことに気が付いた方もいるだろう。実は「ラムちゃん」は、全卓にハイボールタワーを設置してあり、ハイボール飲み放題の店なのだ。ただし、現在は緊急事態宣言下で酒類提供を自粛しているが、人気の秘密はラムのおいしさに加え、この楽しさもある。
価格は60分で550円。延長は30分330円。このタワーは優秀で、コックを手前に倒すとハイボールが出てくるが、奥に倒すと炭酸水を出すことができるため、レモンサワーの中のみを注文し、自分で好みの濃さにすることもできるという。早く緊急事態宣言解除の日が来て来て欲しい。
一人客にも優しい接客がうれしい
ラムのおいしさ、ハイボールタワー飲み放題の魅力も、良かったが、最終的に最も印象に残ったのは、スタッフの接客レベルの高さだった。最初にラム肉の焼き方を教えてくれ、2切れくらいはスタッフが「実演」してくれた。アバラ骨がついた「ラムチョップ」(528円)はラム肉を楽しむ時の定番だが、こちらも実際に焼いてくれ、骨からハサミで肉を切り離し、「肉が残った骨は、縁にたまった脂で火を入れてカブリつくとおいしいですよ」と教えてくれた。

「ラムちゃん」を経営するのは、千葉に本社がある一家ダイニングプロジェクト。新興企業だが、東証1部上場企業でもある。この会社、「日本一のおもてなし集団を目指す」という企業理念を掲げている。
そういえば、有楽町店もその前に行った御徒町店も、中高年の一人客が目立った。中高年は、おいしさやコスパだけでなく「癒やし」も求めているのだ。
(フードリンクニュース編集長 遠山敏之)