新型コロナウイルス感染症によるパンデミック(世界的大流行)により、米国では十分な食事をとれない人が急増しているという。ナショナル ジオグラフィック8月号では、慈善団体や近所の人の助けが必要になっている意外な米国の一面をリポートしている。
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米国最大の食料支援団体「フィーディング・アメリカ」によれば、2020年のアラバマ州ラウンズ郡で食料不安を抱える人の割合(食料不安率)は、全米で16番目に高かった。ここでは3分の1近くの住民が十分な食料を入手できない。
20年に食料不足に陥った米国人の数は、それまでの減少傾向から転じて、劇的に増えた。米国人の7人に1人が食料不安、つまり栄養価の高い食料を十分に入手できない状態に置かれたと推定される。21年3月にフィーディング・アメリカが発表した予測によれば、今年はわずかながら改善が見られ、食料不安に陥る人口は米国民の8人に1人に当たる4200万人となる見込みだ。この数字には1300万人の子どもが含まれる。
つまり、今年は6人に1人の子どもが十分な食事をとれないかもしれないということだ。全米各地で食料の配布を求めて人々が長い車列を作る光景は、米国が長年抱えてきた問題を浮き彫りにした。これはパンデミックのせいで生まれた問題ではなく、パンデミックによって悪化した問題だと、フィーディング・アメリカの最高経営責任者(CEO)であるクレア・バビノー=フォントゥノ氏は話す。
「飢餓の問題は以前からあったのだという認識が高まったと思います」と彼女は言う。「長い間、米国人は自分たちの国にそのような問題があるとは思っていませんでした」
フィーディング・アメリカとNPO「フード・リサーチ&アクション・センター(FRAC)」の報告によると、米国の食料不安は地方においてとりわけ深刻だという。FRACは貧困から生じる飢餓と栄養不足の解消に取り組む団体で、その報告によると18年に子どものいる家庭で食料不安に陥った世帯の割合は都市部が13.5%だったのに対し、地方では16.5%だった。
この差が生じた背景には、地方は働き口が少なく賃金も低いために貧困率が高いこと、手ごろな価格の食品が豊富にそろう大型食料品店が家から遠いこと、店までの交通手段がないこと、ガソリン代や天候が足かせになること、国の栄養支援プログラムを利用しにくいことなどがある。
「仕事も収入も交通手段も限られていて、近所には健康的で手ごろな価格の食品を売っている店がない。そうした状況が、食料不安に陥る人を増やしています」と、FRACで栄養政策と幼児向けプログラムのディレクターを務めるジェリ・ヘンチー氏は話す。