日経xwoman

2021/8/17

改善しないテレワーク 古い企業風土に嫌気

松田さんは今年初めに転職した。育休取得を巡る会社側の対応だけでなく、古い企業風土に限界を感じたのも一因だという。

転職前の会社では、上司たちは「もう何日も子どもの顔を見ていない」と得意げに語り、「今日子どもの誕生日なんだよね」と言いつつ、だらだら残業している。コロナ禍で全社的にテレワークを始めたものの、社内システムがパンクして結局、社員は出社せざるを得なかった。受発注がいまだにファクスで行われるなど、業界にもリモート化を妨げる慣習が残っていた。

さらに2度目の緊急事態宣言が出された時、これらの仕組みが全く改善されていないことに、松田さんは深く失望した。「業界も会社も横並び体質で、新しいことに取り組むのを嫌がる。この職場に留まっても、自分と家族が望む形で働き続けるのは難しいと思いました」

同世代や若手の社員には、共働き家庭も多かった。しかし「会社はそんな現実から目を背け、『夫が大黒柱として稼ぎ、妻は家事育児』というジェンダー規範にしがみついている。その結果、社員の妻たちの勤め先から労働力を奪っています」と、松田さんは批判する。

職場では松田さんの退社と同時に若手2人が辞め、その後も離職者が相次いでいるという。「私の苦労を目の当たりにして、未来に希望を持てなくなったという若手もいました」と、松田さんは話した。

カギは「イクボス」づくり 採用の成否も左右

FJ東北理事の後藤さんは「仕事と育児を両立できる職場づくりは、人材の流出防止だけでなく、採用の成否にも大きく関わります」と指摘する。

「大学生は今、意中の企業の先輩とLINEなどでつながっています。企業の内情は『あの上司はやばい』といった人名まで含めて筒抜け。人を大事にしない会社は、学生本人から敬遠されるだけでなく、情報を就活仲間にまで拡散されてしまいます」

そして「人を大事にする」職場づくりのカギを握る存在こそ「イクボス」だと強調した。「管理職は『慣れ親しんだ方法で職場運営するほうが楽』と考えがちかもしれません。しかし『男は仕事・女は家庭』というバイアスを取り除き、性別に関係なく多様な働き方を選べる職場を作るには、キーパーソンとなる管理職の意識を変えることが、最も重要です」

子育てにほとんどタッチしたことのない男性上司の場合、こり固まった意識を変えるのは簡単ではない。しかし、具体的な情報を提供することが一つのやり方だと、後藤さんは言う。「出産で母体がどれほどダメージを受けるのか、成果を出しているワーママたちは、夫とどのように家事育児を分担しているのか、といった具体的な情報を伝えることで、部下の立場や葛藤を理解してもらい、両立可能な職場作りに取り組む必要があります」(後藤さん)

(取材・文 有馬知子)

[日経xwoman 2021年6月10日付の掲載記事を基に再構成]

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