納車1年待ちホンダ「ヴェゼル」 異例の大胆路線変更
ホンダは2021年4月、コンパクトSUV(多目的スポーツ車)の新型ヴェゼルを発売した。高い人気を誇った前モデルから大胆にイメージチェンジした2代目ヴェゼルだが、早くも1年待ちのグレードが出るほどの大ヒットとなっている。新型はどう変わったのか、自動車ジャーナリストの小沢コージ氏がリポートする。
あえて大胆な路線変更で勝負に
ホンダの新型ヴェゼルが売れている。初期1カ月の受注が3万2000台を超え、人気グレードに至っては納期がほぼ1年待ち。だが、それも実車を見ると納得できる。ヴェゼルは、いろいろな意味で、かつてのホンダの流儀から逸脱した意欲作なのだ。
例えばエクステリア。初代の抑揚あるデザインも良かったが、思い切ってイメージを一新。直線的で塊感のある上品な造形に変ぼうしている。個人的には、北欧辺りの欧州車的なムードすら感じる品の良さだ。
このような大胆な路線は、ホンダ車としては異例のこと。フィットにしろ、シビックにしろ、これまで同社はヒット作の次作は、必ずキープコンセプト路線を選んでいた。そのほうが確実に売れるし、ファンも安心できる。
しかし、大ヒットした初代ヴェゼルの後を継ぐ2代目は、がらりとテイストを変えて勝負に出た。相当な覚悟であったことは間違いない。
力が入っているのはエクステリアだけではない。室内の広さもライバルに対して圧倒的なアドバンテージを発揮している。全長×全幅×全高は4330×1790×1580(大径タイヤを履く中間グレードのZおよび上位グレードのPLaYは1590)ミリメートルで、全長は初代ヴェゼルの後期型とほぼ同じ。2610ミリメートルのホイールベースも変わっていない。幅が20ミリメートル広がり、高さが15~25ミリメートル低くなっているが、大きな差ではない。
ところが、実際に乗ってみるとリアシートがヤケに広いのだ。身長176センチメートルの小沢が座ってもヒザ前にコブシ3つが余るほど。どうやらリアシート全体が以前より低く、後方に配置されているようだ。その分、視点は下がるものの、コンパクトSUVとは思えないほど広々としている。
広大な後席スペースを確保しながらも、ラゲッジ容量は初代と変わらぬ390リットルをキープ。競合車からみると驚異的だろう。
細部までこだわりが見てとれるインテリア
さらに驚くのがインテリアの上質感だ。200万円台から始まるコンパクトSUVだけに、本革シートや本木目パネルは使えない。しかし、見た目の質感が高い合成皮革の「プライムスムース」を多用し、インパネ周りの上質感をうまく演出している。ファブリックとのコンビシートも高級感がある。
びっくりしたのが、エアコンダイヤルやオーディオノブなどに使われている金属調のツマミ。触ってみるとヒンヤリしており、メーカーに確認してみたところ「本物の白金を使ったプラチナメッキを施している」という。驚くほどの細部へのこだわりが見てとれる。
ディテールにも随所に心遣いがちりばめられており、例えばエアコンの冷気を身体にダイレクトに当てないように工夫した送風口の「そよ風アウトレット」もそのひとつ。日本人らしい繊細なアイデアで、まるで間接照明のように、冷気を壁に沿わせて車内に拡散できる。真夏にオフィスが冷えすぎてツラいと感じるような人にはぴったりだろう。
剛性アップで走りの面もグレードアップ
走りもよい。新型ヴェゼルには2種類のパワートレインが用意されている。メインは現行フィットから導入したコンパクト車専用の1.5リッター2モーターハイブリッド「e:HEV」だ。エンジン出力、モーター出力ともにフィットより向上している。特にモーターのピークパワーは131ps、トルクは253Nmとパワフル。118ps・142Nmの1.5リッターガソリンエンジンも悪くないが、やはり走って面白いのはe:HEVの方だ。
かつての1モーターハイブリッドに比べ、燃費が向上しただけでなく静粛性やスムーズさも向上。パワースペックをフィットより強化している上に、ギア比も下げているから発進直後から力強い。電動感の演出も強めており、アクセルオフ時の回生ブレーキの強さを4段階から選ぶことができ、ワンペダルに近い運転も可能だ。
プラットフォームは初代ヴェゼルの流用だが、ボディー剛性感も向上した。高張力鋼板の使用比率を増して横剛性、ねじり剛性、ダンパー取り付け部剛性をアップさせたという。
このように、リーズナブルなコンパクトSUVとは思えないほどの質感アップが随所に施されている新型ヴェゼル。競合となるのは日産のキックスやトヨタのC-HR、ヤリスクロスあたりだろうが、ライバルたちより明確に質感は上。競い合えるのは同じくプレミアム感を追求しているマツダのCX-30ぐらいかもしれない。売れるのも納得の出来栄えだ。
ここ最近、両側スライドドア軽ワゴンのN-BOX以外に爆発的ヒットがなかったホンダ。この辺りで頑張らないと、ますます軽自動車メーカーのイメージが付いてしまうし、利益率も上がらない。そんな危機感が背景にあるのかは定かではないが、久々に爆発力を感じた新型ヴェゼル。皆さんも気になったら、ぜひ1度見に行っていただきたい。
自動車からスクーターから時計まで斬るバラエティー自動車ジャーナリスト。連載は「ベストカー」「時計Begin」「MonoMax」「夕刊フジ」「週刊プレイボーイ」など。主な著書に「クルマ界のすごい12人」(新潮新書)「車の運転が怖い人のためのドライブ上達読本」(宝島社)。愛車はロールス・ロイス・コーニッシュクーペ、シティ・カブリオレなど。
(編集協力 出雲井亨)
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