
イヌは人の表情を読み取ったり、言葉を理解したりできる。だから「うちの犬は賢い」と思っている飼い主は多いだろう。
ただ、なかにはずばぬけて賢いイヌもいる。例えば、「世界で最も賢い犬」と呼ばれた米国のボーダーコリー「チェイサー」は、自分のおもちゃに対応する名詞を1022個も覚えていた。
ドイツでは、同じくボーダーコリーの「リコ」というオスが、3歳児のような速度と洞察力で新しいものの名前を理解する「ファストマッピング」ができた。ほかにも少数のボーダーコリーと2匹のヨークシャーテリアが同様の才能をもつことが確認されている。(
しかし、多くの場合、このような天才犬の例は「たった1匹の犬についてであり、ちゃんとしたサンプル数をもって調べられたことはありませんでした」と、ハンガリーのエトベシュ・ロラーンド大学で犬の認知力を研究するクラウディア・フガッツァ氏は指摘する。
そこで、フガッツァ氏はこの問題を解決することにした。フガッツァ氏ら同大学の「ファミリー・ドッグ・プロジェクト」は、さまざまな犬種34匹の飼い主に対し、愛犬に2つのおもちゃの名前を教えてほしいと依頼した。
34匹のうち、テストに合格したのはボーダーコリーの「オリバ」だけだった。
この結果は「才能が特別なものであることを意味しています」。フガッツァ氏らは実験結果を論文にまとめ、2021年7月7日付で学術誌「Scientific Reports」に発表した。
才能の起源
今回の実験では、ソーシャルメディアを通じて世界中からイヌの飼い主を募集。飼い主がおもちゃの名前を繰り返しながら、イヌにおもちゃを拾ってもらう遊びを毎日自宅で行い、それを3カ月続けた。
月に1度、研究者の立ち会いのもと、飼い主が2つのおもちゃのうち1つの名前を言い、イヌに拾ってもらうテストを行った。テストに合格したイヌには新しいおもちゃを与え、その名前を覚えてもらうことになっていた。34匹には成犬と子犬の両方が含まれていた。
特訓のかいもなく、おもちゃとその名前を結び付けることができたのはオリバだけだった。オリバは2カ月で21個の名前を覚えたが、子犬のころから健康上の問題を抱えており、実験を完了する前に生涯を終えた。
「どの犬種も1つも名前を覚えませんでした。とても驚きました」とフガッツァ氏は語る。研究デザインの有効性を確認するため、名前を聞いておもちゃを拾った実績のあるボーダーコリー6匹にも同じテストを行った。予想通り、6匹すべてが新しい名前を覚えた。