家電に「マイスペック」の新潮流 これさえできればOK
大河原克行のデータで見るファクト
新型コロナウイルス禍は、人々の暮らしに大きな影響を与えた。パナソニックが2020年6月と7月に実施した大規模調査によると、「魅力に感じる暮らし方」(3つまで)として最も多かったのは「今持っているモノを長く大切にするくらし」で、回答者の30.9%に上った。「できるだけモノを持たないくらし」(27.9%)、「家族や友人と過ごす時間を大切にするくらし」(20.4%)がこれに続いた。
多様化するライフスタイル
パナソニックでは、上位2つの回答が3割前後に達していることから、「コロナ禍で生活が変わり、必要なものを選んで暮らしを再設計する人が増えている」と分析する。
ライフスタイルの多様化も、生活様式の変化をもたらす。
例えば少子高齢化の加速。20年には28.9%だった65歳以上の高齢者の比率は、40年には35.3%にまで増加し、19歳以下は16.5%から14.7%に減少すると予測されている(出所:総務省統計局、および国立社会保障・人口問題研究所)。
晩婚化や未婚化も進む。50歳時の未婚割合は40年には男性が29.5%、女性が18.7%まで高まる(出所:内閣府)。これにより単身世帯数は40年には39.3%に達する(出所:国立社会保障・人口問題研究所)。
一方で共働き世帯の割合も増加し、20年には68.5%と30年前より約20ポイント上昇した(出所:総務省)。
ライフスタイルの多様化で調理家電へのニーズも変化
一連の変化は、食生活に大きな影響を与え、調理家電のあり方を変えようとしている。「おいしく調理できるというニーズは不変だが、ライフスタイルの多様化に合わせて調理家電に求める要素も多様化している」とパナソニックでは説明する。
例えば、「とにかくシンプルで簡単に使いこなせないか」「自動調理はできないのか」といったニーズがある一方で、「調理方法をできるだけ細かく設定したい」「多彩な料理を作りたい」といったニーズもある。あらゆるモノがネットにつながるIoTなどの先進機能を求める人もいれば、デザインを最重視する人もいる。
今や「メーカーが決めたスペックでは、多様化するニーズに応えられない」とパナソニックも認める。
機能をそぎ落とした「マイスペック家電」
そこでパナソニックは、これまでのように「フルスペック」や「ハイスペック」を追求するのではなく、「マイスペック」を実現する新しいコンセプトの調理家電を投入することにした。第1弾として21年9月1日からIoT対応IHジャー炊飯器「ライス&クッカー SR-UNX101」(市場想定価格4万5000円前後)とIoT対応オーブンレンジ「ビストロ NE-UBS5A」(同6万5000円前後)を投入する。
マイスペック家電とは、これまでのフルスペックのうち使うかどうか分からない機能をそぎ落とし、よく使う機能に絞ったシンプルな製品のこと。欲しい機能を後から追加したり、機能をカスタマイズできることがポイントだ。使う人のライフスタイルや時期に合わせて必要とされる使い方に機能をアップデートできるという。
例えば、これまでパナソニックの炊飯器の最上位モデルは、430通りの炊き分けができた。しかし今回投入するマイスペック仕様のライス&クッカーは、25通りの炊飯コースからスマートフォンを使って3つ選んで登録する。多くのコースを用意しても、ほとんどの人はひと月に3コース程度しか使わないことが分かったからだ。その分、操作はシンプルになった。
スマホでコースやメニューを入れ替え
コースは必要に応じて入れ替えられる。1人暮らしのときは好みに合わせて、「かためのごはん」「冷凍用ごはん」「カレー用ごはん」の3コースを選択。結婚して共働きになったら、忙しい時間を効率的に使える「早炊きコース」を入れたり、子供が生まれたら「おかゆコース」を追加するといった具合だ。
パナソニックでは毎年11月に、その年のコメの出来に応じて最適な炊き上がりとなるように、設定したコースを配信することも計画している。
オーブンレンジは、標準では角皿(オーブン皿)だけが付属するが、別売のグリル皿やスチームポットを追加購入してスマホアプリを通じて登録すると、グリル料理や蒸し料理などが可能になる。スマホアプリ経由でお気に入りの調理メニューを登録できるほか、有名店とのコラボメニューの配信も予定している。
パナソニックは、「いまの自分にちょうどいいメニューに出合える。生活スタイルの変化や調理したいものが増えるのに伴って機能を追加したり、マイスペックにカスタマイズできたりする」とマイスペック家電の良さを説明する。まずはスマホを使いこなしており、ライフスタイルが数年で変わる可能性が高い20~30代のシングル/スモール家庭に売り込む。
調理家電に限った話ではないが、日本では「いつかは使うかも」という発想でフルスペックやハイスペックの製品を選択する傾向が強かった。だが、若い世代を中心にそうした意識も変化しつつある。「マイスペック」というコンセプトが定着するか。パナソニックにとっても大きな挑戦となる。
ジャーナリスト。30年以上にわたって、IT・家電、エレクトロニクス業界を取材。ウェブ媒体やビジネス誌などで数多くの連載を持つほか、電機業界に関する著書も多数ある。
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