2021/7/30

前回お話したように、企業によっては採用意欲が高く、多くの学生に内定を出し、複数内定を得る学生が増えています。結果的に内定辞退率も上昇。リクルートの就職みらい研究所の調べによると、6月1日時点の内定辞退率は48.4%で、例年よりも高い水準です。

「オンライン化によって、決められない学生が増えている」と語る採用コンサルタントの谷出さん

「オンラインに慣れてきたこともあり、選考はうまく進みました。心配なのは、内定承諾後の辞退です。これからの内定者フォローをオンラインで行うか、対面で行うか、迷っています」。6月中旬、7社の大手・中堅企業人事担当者とオンライン懇談会をしたときにも、やはり内定辞退のことが話題の中心で、「内定者フォローをどのようにやっていくべきか」ということについて各社は頭を悩ませていました。

ある人事担当はこんな不安も口にしていました。「選考は全部オンラインで、対面で会わずに内定を出しているから、会社のことを理解してもらえているのか…。そもそも働くということをどれだけ理解しているのだろうか?」

同様のことを私も危惧しています。ネット上で企業の情報や口コミなど就活に必要な情報は一通り見ることができます。しかし、学生時代に知る機会があまりない概念や考えたこともない概念をつかむことは難しくなりました。つまり、働く意味やキャリアといった概念について具体的なイメージをつかみにくくなったのではないか、ということです。

働くことについて自分なりにイメージを作っていくことは、従来、社会人と出会う中で、雑談などの「余白の時間」で教えてもらうことが多かったと思います。例えば説明会が終わった後にたまたま近くにいた社員と話して、何気ない会話から、会社の雰囲気や仕事のイメージをつかむことができました。しかしオンラインではボタンを押すと終了、自由に雑談する時間が減少しています。

コロナ禍の就活から私が感じるのは、学生のときから「社会や自分のキャリアをどのように捉えるのか?」という就職の本質が、より問われるようになってきたということです。

キャリアを考えるスタートライン

ここまでコロナ就活の現状を伝えましたが、最後に、これから就職を考える学生の皆さんへのアドバイスもお話ししていきます。

「就職活動」というのは説明会や選考に参加するという行為になりますが、その前に自分のキャリアを考える必要があります。前編では就活の早期化の現状を述べましたが、学生の皆さんに伝えたいのは「早く就活をしよう!」ではなく、その準備をしよう、ということです。

よく学生から聞かれる質問に、「いつから就活を始めたらいいですか?」というものがあります。就活のスケジュールはある程度決まっていますが、就活の準備は人それぞれ。将来を考えて動いている人は就活をスタートしているようなものです。

極端な話、小学生からプロ野球選手になりたいと考えている人は、トレーニングを一生懸命にしています。教員になろうと思っている人は高校時代に進学先として教育分野に強い大学・学部を選んでいます。このように将来について考えて行動している人がいる一方で、なんとなく、高校、大学と進学している人もいます。つまり、自分のキャリアを考えるスタートラインが大きく異なるのです。

まだ何も考えていない人は、自分がどうなりたいのかを考える必要があります。「どの業界・企業がいいか」よりも先に「どんな社会人になっていたいか」を考えてみましょう。無限にある将来の選択肢を絞るためには、そもそも情報を得ることが必要です。社会や仕事、働く目的など知らずに選択肢を絞ることはできません。家族や先輩に話を聞く、ネットで調べる、本を読むなど、様々な情報収集手段の1つにインターンがあります。「インターンに参加すれば有利になる」と考えるのは、手段が目的になってしまっています。主体的に様々な情報にあたり、自分なりに解釈していきましょう。

なかなか絞れない人は、情報を得たときに自分が共感できること、できないことに分けてみるのもおすすめです。共感できることを見ていくと、自分のなりたい姿を考えるヒントになりますよ。考え始めた時間が早ければ早いほど、準備の時間となり、様々な情報や周囲からの協力を得ることができるはずです。

谷出正直(たにで・まさなお)
 奈良県出身。筑波大学大学院体育研究科を修了。中学・高校の保健体育の教員免許取得。新卒でエン・ジャパンに入社。新卒採用支援事業に約11年間携わり、独立。現在は、企業、大学、学生、採用支援会社、メディアなど新卒採用や就職活動に関わる約2700名と生きたネットワークを構築。様々な現場の情報やノウハウ、知見、俯瞰(ふかん)した情報を持つ。企業への採用支援、学生への就職支援、大学でのキャリアの授業、大学や保護者への講演・研修、現場情報の発信などを行う。筑波大学同窓会「茗渓会」の理事。

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