教育訓練給付でスキルアップ 「学び直し」て長く働く
これであなたもマネー上手
人生で「お金に困る」ことを避けるには、働き続けて収入を絶やさないことが基本。世の中の変化はどんどん速くなっているので、働いている間のスキルアップも欠かせません。
会社員が働き続けることを支援する「雇用保険」制度には、失業給付や育児休業給付、介護休業給付に加えて、スキルアップを支援する「教育訓練給付」があります。その全体像を見てみましょう。
長く働くにはスキルアップが必要
2021年4月から、高年齢者雇用安定法の改正で70歳までの就業機会の確保が事業主の努力義務となりました。60歳以降も働くのが普通の時代になったといえます。
働き始めると知識やスキルがだんだん身に付いていきますよね。一方で、それらはしだいに時代遅れになっていくので、さらなるスキルアップが必要になります。働く年数が長くなればなるほど、途中での「学び直し」が大切になってくるのです。
そこで活用したいのが雇用保険の「教育訓練給付制度」です。資格取得やスキルアップのために厚生労働大臣の指定を受けた講座を受講し、受講料が4000円を超えた場合に、その費用の一部が受け取れるという仕組みなどで、現在は4つの給付金があります。
一般教育訓練給付金と特定一般教育訓練給付金
広く利用されているのが「一般教育訓練給付金」です。
対象者は雇用保険の被保険者(あるいは離職後1年以内の人)で、支給要件期間が1年以上ある人。1度給付を受けたことのある人は、受給後の被保険者期間が3年以上あれば再度利用することができます。
給付額は受講費用の20%で上限は10万円。対象となる講座は1万以上あり、内容も、簿記や英語検定、司法書士、ファイナンシャルプランナー、中小企業診断士、消費生活アドバイザー、Webデザイナー、土木施工管理技士などさまざまなジャンルにわたっています。
「特定一般教育訓練給付金」は、労働者の速やかな再就職と早期のキャリア形成を目的に2019年10月に新設されました。
対象者は一般教育訓練給付と同じ。給付額は受講費用の40%で年間の上限が20万円です。受講に当たっては、事前にキャリアコンサルティングを受けることになっています。
講座は、介護職員初任者研修、介護支援専門員、宅地建物取引士、税理士などの資格取得講座や情報処理技術者試験などのほか、出産・育児等のためにキャリアを中断した女性などの職場復帰・キャリアアップを目的とした職業実践力育成プログラムがあります。
一般教育訓練給付金・特定一般教育訓練給付金は、教育訓練を行う機関で講座の受講を申し込んで受講料を支払い、講座修了後に、教育訓練機関が発行する領収書と教育訓練修了証明書、教育訓練給付金支給申請書などをハローワークに提出すると、給付金が受け取れます。
専門実践教育訓練給付金と教育訓練支援給付金
「専門実践教育訓練給付金」は、数年かけて専門的な知識を身に付けたり資格を取得したりする人向けで、対象者は雇用保険の被保険者(あるいは離職から1年以内)の人で、支給要件期間が2年以上の人。教育訓練給付を受けたことのある人は、受給後の被保険者期間が3年以上あれば再利用できます。離職の翌日から1年以内に、出産・育児・疾病・負傷などで30日以上受講開始ができない場合は、ハローワークに申し出ると、雇用保険の被保険者でなくなった日から受講開始までの日数に受講できない日数(最長19年)を加算できます(一般教育訓練給付なども同様)。つまり、離職してから1年以上たっていても給付の対象となるケースがあるということです。
専門実践教育訓練給付金を受け取るには受講開始の1カ月前までにハローワークで手続きします。
給付額は受講費用の50%で年間40万円が上限です。さらに、受講して資格を取得し、修了後1年以内に雇用された場合は20%(上限16万円)が追加で給付され、3年間受講すると受給額上限は168万円となります。給付金は、専門実践教育訓練を受講している間、6カ月ごとに申請し、6カ月ごとに受け取ります。受講期間が4年の専門実践教育訓練を受ける場合は、3年目の受講修了時に4年目受講相当分が上乗せされます。
対象となるのは看護師、介護福祉士、保育士、栄養士などの資格取得講座や、専門学校の職業実践専門課程、専門職大学、専門職大学院など約2500講座。受講前にキャリアコンサルティングを受ける必要があります。
専門実践教育訓練給付の対象講座は通信制や夜間制のものもありますが、多くは平日昼間に開講されています。受講するためにいったん仕事を辞めなければならない場合などは、受講中の生活費を支援する「教育訓練支援給付金」が受け取れます。受講開始時に45歳未満、専門実践教育訓練を修了する見込みなどの条件を満たした人が対象で、雇用保険の基本手当日額の80%が受け取れます。受講者が雇用保険の基本手当を受給できるときは、その受給終了後から教育訓練支援給付金の受給開始となります。教育訓練支援給付金は今のところ、2022年3月までに受講を開始した人が対象です。
目的意識とキャリアプランが大切
教育訓練給付の対象講座はネットで検索できます。(https://www.kyufu.mhlw.go.jp/kensaku/SSR/SSR101Scr01S/SSR101Scr01SInit.form)
教育訓練給付制度は内容がたびたび変更されているので、厚生労働省のサイトで時々チェックするとよいですね。
一般教育訓練給付は使ったことのある人も多いと思います。比較的気軽に利用できますが、利用するからには単なる"資格ホルダー"になってしまわないよう、明確な目的意識をもって自分のキャリアアップに役立てましょう。
専門実践教育訓練は給付額が大きく利用価値が高いといえます。その分、しっかりしたキャリアプランと資金計画が求められます。
スキルを身に付けたり資格を取得したりして自分自身の価値を上げれば、有利な転職や起業、副業など多様な働き方にもつながります。教育訓練給付を活用して、自分のキャリアプランを実現してください。
オフィス・カノン代表。ファイナンシャルプランナー(CFP)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。千葉大卒。法律雑誌編集部勤務、フリー編集者を経て、ファイナンシャルプランナーとして記事執筆、講演などを手掛けてきた。著書に「だれでもカンタンにできる資産運用のはじめ方」(ナツメ社)など。http://www.m-magai.net
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