走行データを取るにはデバイスが必要です。起業した時点ではまったく影も形もなかったのですが、海外では何社かそういうデバイスを開発している会社があったので、それらを取り寄せ研究室でバラして研究しました。トヨタが創業期にフォード車を分解して研究したのと同じ原始的なやり方です。
僕自身がエンジニアではないので、大学時代のインターン先で私の知る限り最高レベルのエンジニアだった方にも協力をお願いしました。他にも本当にいろいろな方に力を貸してもらい、2年半かかって独自のデバイスの量産化にこぎ着けました。
スタートアップはみなそうですが、資金的には大変でした。資本金100万円が瞬く間になくなったとき、3000万円を出資してくださったのがベンチャーキャピタリストの佐俣アンリさんです。佐俣さんも慶応OB。僕は大学時代にイベントでお会いしたことがあり、面識がありました。
「起業家がやりそうな失敗はすべて経験してきた」というが、自身の一番の強みは「粘り強さ」だと分析する。
僕が好きな言葉は永守重信・日本電産会長がおっしゃった「すぐやる、必ずやる、できるまでやる」です。思えば普通部時代から、面白そうだと思ったことにはすぐに手を出し、無謀と思われるようなことにもチャレンジし続けてきました。もともと楽天的で寝れば忘れるタイプだというのもありますし、慶応の独立自尊の精神、自由な校風のもとで、のびのびと、その時々にやりたいことに熱中できたのは僕にとって幸運でした。そういうベースがあった上で、挑戦する価値があると心の底から思えるテーマに出合えた。だからこそ粘り強くやってこられたのだと思います。
スマートドライブが目指すのは、移動体に関するデータプラットフォーマーです。昔「インテル入ってる」というCMがありました。パソコンやクラウドサーバーに同社のマイクロプロセッサーが必ず搭載されている、というアピールでしたが、僕らのデータが世界中のさまざまな会社のサービスに使われて、「スマートドライブ入ってる」という状況が作れるように、これからも粘り強く頑張っていきたいと思っています。
(ライター 石臥薫子)