女性の心をくじく「駄言」 こんな言葉はレッドカード
心を打つ「名言」があるように、心をくじく「駄言」(だげん)もあります。駄言には無意識の思いこみ、特に、性別のステレオタイプによるものが多くみられます。そんな駄言を集めた書籍が日経xwoman編集の『早く絶版になってほしい #駄言辞典』(以後、『#駄言辞典』)。ジェンダーにまつわるステレオタイプから生まれる400を超える「駄言」を、エピソードとともに紹介している本書から、駄言の実例とその駄言を生んでいる背景の分析を紹介します。今回のテーマは「女性らしさ」に関する駄言とその要因です。
「就活は女性らしくスカートで」
書籍『#駄言辞典』を制作するに当たって公募したところ、ツイッターとウェブ上フォーマットに、合計約1200個の駄言が投稿されました。中でも目立ったのは「女性らしくない」「女のくせに」といった性別による行動規範に関する駄言でした。
「女性は女性らしく振る舞うべきだ」という考え方を時代錯誤と感じる人は多いでしょう。しかし、これは「嫌な発言なのでやめてほしい」というモラルやマナーの話にとどまらないテーマです。さまざまな資料を探っていくと、この問題が日本の社会全体や法律の歴史にも根ざしていることが分かってきます。私たちは、そのことにまず気付く必要があるのです。
さて、日本の社会に、「女性は女性らしく、男性は男性らしく」というジェンダー規範が広く浸透したのは、いつ頃からなのでしょうか。
「女らしさ」の背景には戸籍法や旧民法の存在がある
「女らしさ」を準備した背景の一つに、1871年(明治4年)に制定された戸籍法や1898年(明治31年)に交付・改編された旧民法があります。戸籍を編製するに当たり、明治政府は父親とのつながりを重視しました。また、旧民法で定められた家制度によって、妻は結婚すると夫の家に入り、その家の姓を名乗るなど、男性が権力を持つような社会構造がつくられたのです。それと同時に「良妻賢母教育」が進められ、女性の行動が制限され、「女らしさ」が押し付けられるようになったと考えられます(参考:『女性差別はどう作られてきたか』集英社新書)。
両性は「平等」になったはずなのに
第2次世界大戦後、日本国憲法の第24条には「両性の平等」が定められたものの、社会における性別役割分業の構造は残りました。また、日本社会には家族的な考えを会社に持ち込む傾向があるため、これが職場における性別役割分業にもつながったと考えられます。
さらに、高度経済成長期の間、日本では生産性を向上させるために男性は会社で長時間働き、女性は家で家事や育児を担うというライフスタイルが前提とされました。家庭や学校、社会においても、女性と男性は性別で分けられ、「女性らしい」または「男性らしい」振る舞いや考え方が推奨されることが続いたのです。
しかし、そうした高度経済成長期は幕を閉じ、今、日本は人口減少、経済縮小の局面を迎えています。今日求められているのは、性別役割分業の意識を払拭し、従来の固定観念を打ち壊して、新しい価値を創造する、多様性のある社会をつくることです。
また、近年では性的マイノリティーのLGBTQや多様性を尊重する考え方も広まっています。2021年3月、札幌地方裁判所が「同性婚を認めないのは違憲」とする判断を示したこともその一例です。
固定観念に別れを告げ、「自分らしさ」を発揮する時代
私たちは「女性・男性」という2つの枠組みに可能性を押し込めるという固定観念に別れを告げ、一人ひとりがもっと自由に伸び伸びと「自分らしさ」を発揮し、新たな価値を創造していく時代に突入していると言えます。
就職活動の場においても、その流れが見えます。従来の就職活動で、女性は「女性らしさ」の象徴であるスカートのリクルートスーツを着用し、髪形や持ち物も画一的なスタイルにすることが推奨されていました。しかし、最近では「女性らしい」スタイルに縛られることなく、「自分らしい」服装や髪形、メイクを許容する、また、業界によっては歓迎さえするという、新しい流れが生まれています。
このように、誰もが性別に縛られず、自分らしい選択ができるようになれば、社会はこれまでよりも生きやすいものになるはずです。
駄言の実例「女を捨ててる」
書籍『#駄言辞典』にも掲載されている、公募で集まった「駄言」の一部を紹介します。以下、太字部分が駄言です。応募時に寄せられたコメントや投稿先も併せて掲載します。
「あの子、黙ってればモテるのになー」 (ツイッターより)
「若くてきれいなんだからニコニコしてなよ」 (ツイッターより)
「女を捨ててる」
メイクやおしゃれや美容に興味がなかったりすごい大食いとか大酒飲みの女性が言われがちなやつ。いつもきれいでかわいくあることを意識して、食も細くてお酒もたしなむ程度じゃなきゃ女じゃないのかよ、て思う。(ツイッターより)
「男みたいな女だな」
親から言われた。(ツイッターより)
「女子力」
ティッシュを持ち歩く人と性別は関係ないんだわ。(ツイッターより)
「今度の新人、女性だから女子会を開催してください」
男性管理職から、職場に数人いる女性社員に一斉送信されたメール。気を利かせているつもりらしいが「少数だし弱い立場だからまとまっておけ」とマウンティングされている気分になった。「女性のことは女性たちでよろしく」という意識が、性別を超えた理解を遠ざけていると思う。(神奈川県・アビ・30代・女性)
「女が大学行って勉強する必要ある? 女は結婚して専業主婦になるのが一番なんだからさ」
田舎の親戚から言われた。(ツイッターより)
「背が高い 頭がいい 酒の強い はっきりものを言う 女はモテないよ」
全部言われたことあるわ。モテたいなんて言ってないのに一方的に見下してくるの本当無理。そしてそれはモテる女じゃなくて男が支配しやすい女だよね??(ツイッターより)
「ちょっと太ったんちゃうか?」
「食い過ぎちゃうか?」
会社の結構、上の人から。お返しに、「ちょっとハゲてきたんちゃいます?」「老けすぎちゃいます?」とか言っても許されるってことでいいですよね。
(ツイッターより)
「女の敵は女」
「女同士は陰湿」
「女は感情的」
三大「そろそろ滅びよっか」な言葉。(ツイッターより)
「女性が多い職場って、もめ事が起きやすそう」
男性の多い職場なので女性に慣れてないと恐怖に感じるようです。もめ事の起きやすさに性別は関係ないですよ。(ツイッターより)
駄言の実例「女性ならではの感性」
女の子が女性や女であったり、表現は様々だが。男性生殖器に関する身体感覚は確かに分からない。ただそれだけだ。(ツイッターより)
「女性も食べやすいサイズになりました!」 (ツイッターより)
「女性にうれしい」
グルメ番組などでヘルシーな料理を表現するやつ。健康を気にしてるのは女性だけ?(ツイッターより)
「女性ならではの感性」
「女性ならではの細かい心配り」
「女性らしいしなやかさ」
(ツイッターより)
「女はすぐに泣くんだよな」
私は職場で泣いたことは一度もないが、男性だらけの管理職会議の場では、よく出る発言。(ツイッターより)
「女性はいくらでも嘘をつける」
ある国会議員が、暗に性被害当事者へ「その被害はなかったのではないか? 本当なのか?」と発言。(ツイッターより)
「おまえの体は俺のものだろ!」
私の体は私のものです。(ツイッターより)
「男を立てろ」
女に立たせてもらわないと立てないのか笑。(ツイッターより)
「女は三歩下がって歩け」 (ツイッターより)
◇ ◇ ◇
『#駄言辞典』をコミュニケーションのきっかけにして、皆さんの力で古い固定観念に揺さぶりをかけ、ステレオタイプを覆していきましょう。
(構成 小田舞子=日経xwoman)
[日経xwoman 2021年6月11日付の掲載記事を基に再構成]
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