食用油、異例の3度目の値上げへ マヨネーズにも波及
幅広い料理に欠かせない食用油の値上げが相次いでいます。食用油大手の「J-オイルミルズ」「日清オイリオグループ」「昭和産業」の3社は6月、今年2回目の値上げをしました。8月にも3度目の値上げをすると発表しています。今回値上げの対象になったのは、一般的に家庭で使われている大豆油や菜種油などをブレンドした「サラダ油」と菜種油の一種の「キャノーラ油」です。最も売れている1キロの物から小さいサイズの物まで様々な商品が対象となりました。年3回値上げするのは9年ぶりで値上げ幅は記録が残っている中では最大になっています。なぜ、こんなに価格が上がっているんでしょうか。
今回値上げしたのは輸入に頼っている原料の大豆や菜種の価格が高騰しているためです。シカゴ商品取引所の大豆先物を見てみると、1年前は8ドル前後で推移していたのが、今年の春先に2倍の16ドル台まで上昇しています。カナダのウィニペグ取引所の菜種先物も5月上旬に1000カナダドル超と最高値を更新しました。
値上がりの3つの要因
大豆や菜種が高騰した要因は3つあります。「天候不順(ラニーニャ現象)」「脱炭素」「中国の豚肉生産量の増加」の3つです。ペルー沖の海水温が平年に比べ低くなる「ラニーニャ現象」の影響で、大豆生産で世界1位のブラジルは産地が乾燥に見舞われました。世界2位のアメリカも大規模な干ばつに見舞われました。大豆の作付けや収穫の遅れが懸念されたことで、先高を見込んだ投機的な資金が流れ込み価格が高騰しました。ただ、実際には生産量に影響は見られなかったんです。米農務省が6月に発表した報告書によると、今年の大豆の年間生産数は前の年と比べ5.9%増加すると予想されています。相場用語でいう「材料で買う」という動きで価格が上がってしまいました。
思惑で相場が動いた天候不順に対し、実需が増えたのが「脱炭素」です。各国が温暖化ガス削減に動いていて、環境にやさしいとされている低炭素燃料であるバイオ燃料の需要が加速しています。バイオ燃料に必要なのが大豆や菜種といった植物油なんです。天候不順で減った収穫量に対し、バイオ燃料で需要が拡大した結果、品薄になり値上がりにつながりました。
もう一つが中国の豚肉生産量の増加です。中国は豚肉の世界最大の生産国で消費国ですが、2018年にアフリカ豚熱が流行し生産量が落ち込みました。20年の豚肉生産量は3630万トン。17年(5400万トン)に比べ32%減となりました。ただ、今年は疫病も沈静化し、生産量が4350万トンと約720万トン増える見込みといいます。増加分の720万トンは日本の豚肉の年間生産量の5.5倍に相当します。生産回復に伴いエサになる大豆の輸入量が急増しました。米農務省によると、今年度の中国の大豆輸入量は1億トンと過去最大になると予想されています。
この3つのポイントにより原料の価格が高騰し食用油の値上がりにつながったんですね。
ただ実際に消費者がスーパーなどで買う店頭価格は、そこまで上がっていません。食用油メーカーが今年1回目の値上がりをした際の店頭価額を見てみると、1キロ30円以上の値上げを打ち出したのに店頭価格は10円程度しか上がっていません。食用油だけでなくカップめん、飲料の店頭価格はメーカーが値上げを打ち出してからスーパーとの交渉があります。実際に通ったのが3分の1程度だということです。メーカーはこうした値上げをなんども繰り返して、収支改善をすすめています。
食用油の値上がりで他の商品にも影響が出ています。食用油を主な原料としているマヨネーズが代表的です。キユーピーは7月から8年ぶりに値上げをしました。今後も食用油を多く使っているドレッシングなどさらに値上げされる商品が増える可能性があります。
原料生産増加で値上がり一服か
一方で、今後の価格上昇を抑えそうな要因もあります。米国の農家で収益性の向上を求めて栽培を競う「エーカーバトル」が起こって、小麦や綿花から転作が進むほか、休耕地を活用する動きも出ているそうです。もうかる作物を増やした結果、大豆の作付面積は前年度比8%増える見通しで、今後生産量も増えていくとみています。米農務省が発表した世界の需給予想6月版では大豆の世界の在庫は2021年度に9255万トンと5月時点の計算よりも145万トン多くなる見通しを示しました。原料の生産量が安定すれば食品油は値上がり前の水準まで戻る可能性もあります。
(BSテレ東日経モーニングプラスFTコメンテーター 村野孝直)
BSテレ東の朝の情報番組「日経モーニングプラスFT」(月曜から金曜の午前7時5分から)内の特集「値段の方程式」のコーナーで取り上げたテーマに加筆しました。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。
関連企業・業界