さらに日本市場を調査して驚いた。難聴など聴覚に課題を持つ日本人は1500万人を超えているとみられるが、補聴器の使用率は14%にとどまり、米国など主要国の半分にも満たない状況だった。

もともと本拠地移転の候補地は米国だった。米国留学の経験者だったので、英語は堪能。妻も米国系韓国人。日本語は話せないが、隣国で親近感があった。ビジネスチャンスは日本の方がより高い。迷ったら、外に踏み出す生き方をしてきた。あえてダイバーシティー(多様性)の環境で挑戦するため、19年に日本に本拠地を移した。

新エリートコースは米国留学して起業

ソウル出身のソンさん。韓国トップクラスの進学校、明徳外国語高校で学んだ。韓国は日本以上に学歴を重視するお国柄だ。ソウル大学、高麗大学、延世大学が「SKY」と呼ばれているトップスリー大学だ。熾烈(しれつ)な受験戦争を勝ち抜く多くの高校生が「外国語高校」「科学高校」など特定分野の人材養成のために設立されたエリート校出身だ。

スマホと連動した聴覚サポートイヤホンをするソンさん

当初、ソンさんは高麗大を志望した。しかし、両親は3年制のデザイン専門学校「サムスン・アート・アンド・デザイン・インスティテュート(SADI)」に進学するように勧めた。実はこの学校は韓国最大の財閥、サムスングループが1995年に肝煎りで設立した専門学校だ。サムスン電子が世界企業に飛躍できたのは「デザイン経営」に踏み切ったのがきっかけだが、そのデザイナーの養成学校だ。

ソンさんも同校のカリキュラムに興味を持ったが、両親がSADIを強く勧めたのは米国留学の道が開かれていたからだ。

韓国のエリート層はSKYなどの名門大を卒業し、サムスンなど財閥系企業のほか、公務員、法曹界、医師を目指すのが王道。ここに新たなキャリアコースとして人気となったのが、米国に留学して起業することだ。LINEの親会社だったネイバーが台頭し、韓国でもベンチャーブームが巻き起こった。「10代の頃から起業したいと考えていたので、米国留学に挑むことにした」という。SADIで2年間を過ごして渡米後、ボストンの有名デザイン学校で学んだ。

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NYのおじの嘆きが起業の原点
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