2021/8/1

多様な起源

世界の農家や消費者は今、厳しい現実に直面している。気温が上昇し、干ばつや洪水が増え、既に一部の地域では作物の収穫量が打撃を受けている。これまで数十年にわたって減少してきた世界の飢餓人口は、再び増加傾向にある。

アブラナ属の多くは寒冷気候に適しており、こうした植物が食の中心になっている地域では深刻な供給不足を起こす恐れがある。たとえば韓国の研究者は、国民食であるキムチに使うハクサイが、暑さと干ばつの両方に弱いという研究結果を発表した。

また、ブラッシカ・ラパとヤセイカンランの交配種であるセイヨウアブラナは、キャノーラ油の原料として世界中で栽培されているため、世界の食糧供給にはこちらのほうが影響は大きいかもしれない。商業用に栽培されているセイヨウアブラナの品種は遺伝的多様性に乏しく、気候変動に強い品種を開発しようにも選択肢が限られている。

この点で、最新の研究結果は大いに参考になるだろうと、研究者たちは期待する。原産地に生育する原種は遺伝的に多様だからだ。病気に強く、味が良く、干ばつや暑さに強い品種を開発するために、原産地で新たな遺伝子を探す育種家は多い。たとえば、19世紀にアイルランドのジャガイモ飢饉(ききん)を引き起こしたジャガイモの疫病への耐性をつけるために、野生のイモの遺伝子を使った品種が開発されたことがある。

人間や自然の脅威によって絶滅してしまう前に、今回特定されたアブラナ属の原産地で一刻も早く種子を集めて保存すべきであると、研究者たちは警鐘を鳴らす。マカルベイ氏は、ヒンドゥークシュで採取されたブラッシカ・ラパの種子が世界のシードバンクにほとんど入っていないことを懸念する。今後も気温が上昇し続ければ、山に自生する植物は標高の高い方へと移動するしかない。やがて頂上まで到達すれば、後は生息域が狭まるばかりだ。

一方のヤセイカンランの場合、原産地とみられる島々での個体数が少なく、問題はさらに深刻だろうと、メーブリー氏も言う。ヤセイカンランを研究するチームは、クレタ島やキプロス島など地中海の島々へ行って種子を採集する予定だったが、新型コロナウイルスによるパンデミックのため中止せざるを得なかった。今は、22年に渡航できるようになることを期待している。

米ウィスコンシン大学マディソン校の民族植物学者であり、今回のブラッシカ・ラパ研究の共著者でもあるイブ・エムシュウィラー氏は、原産地以外にも、遺伝的多様性が豊かな場所で野生の植物を採集・保存すべきだと話す。野生に育つ種はしばしば、雑草とみなされて根絶したほうが良いとアドバイスされることがある。

「これらの作物にどんな未来が待ち受けていようと、全ての種を保存する必要があります。全ての品種、その遺伝子の多様性、近縁種も、絶滅から守らなければなりません」

(文 GABRIEL POPKIN、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年6月18日付]

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