2021/8/1

アブラナ属の遺伝子は「良い意味でごった煮状態です」と表現するのは、米ミズーリ大学コロンビア校の進化生物学者クリス・ピレス氏だ。

フロリダ自然史博物館の遺伝学者マケンジー・メーブリー氏も同意する。「アブラナ属は、研究が難しい植物として有名です。別の変種でも互いに花粉をやり取りするのが好きなんです」。つまり、自生するアブラナ属は、複数の祖先の雑種である可能性が高い。

探偵のような仕事

ブラッシカ・ラパとヤセイカンランの原産地を探していた二つの研究チームは、シードバンク(種子の保存施設)やその他世界中に存在する種子コレクションからサンプルを集めた。ブラッシカ・ラパを研究したマカルベイ氏のチームは、400点以上のサンプルを使ってゲノムの一部を解析し、生育可能な地域を割り出した。ブラッシカ・ラパの原産地を探す研究で、ここまで多くのサンプルを解析した例は過去にない。この研究には、ピレス氏とメーブリー氏も参加した。

さらに、言語学者や考古学者の助けも借りて、カブなどアブラナ属の作物に関する古い文献や、古代集落の遺跡で見つかった遺物も調べた。「一つの物語を様々な側面から調べる、探偵のような仕事です」と、マカルベイ氏は言う。

それらの調査を総合した結果、ブラッシカ・ラパは、パキスタンとの国境に近いアフガニスタンのヒンドゥークシュ山脈周辺が原産であることが示された。3500~6000年前に、この地方で最初に栽培化された野菜がカブだった。後に、品種改良によってターサイ、チンゲンサイ、ラピニなどの葉物野菜や、食用油の原料となる種子、インド料理に使われる香辛料用の変種が登場する。

ヤセイカンランに関する同様の研究は、メーブリー氏とピレス氏が中心となり、マカルベイ氏が他の共著者とともに名を連ねている。こちらは200点以上のサンプルを分析した結果、ギリシャとトルコに挟まれたエーゲ海とその周辺に浮かぶ島々が原産地である可能性が高いとされた。

「私たちの理解を大きく深める研究です」と、プルガナン氏は話す。「これらの品種に関して、集団ゲノミクスのレベルで行われた初の体系的な分析と言えるでしょう」

しかし「これで全て解決というわけではないと思います」とも付け加えている。原産地で採集した植物をさらに分析して、今回の研究結果を確認する必要があるという。

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