白菜やキャベツのルーツはどこ? DNAで謎を解く

2021/8/1
ナショナルジオグラフィック日本版

カブやチンゲン菜、白菜などの原種であるブラッシカ・ラパは、アフガニスタンとパキスタンの国境に近い山地が原産で、数千年前に栽培化された(PHOTOGRAPH BY HENRIK KETTUNEN, ALAMY)

韓国のキムチに使う白菜や、北欧のシチューに使うカブ、そのほか食卓に欠かせないキャベツやブロッコリー、小松菜。これらの野菜は全て、元をたどればアブラナ属のブラッシカ・ラパ(Brassica rapa)またはヤセイカンラン(Brassica oleracea)というたった2種の野草から生まれた変種だ。

さらにいえば、食用油として広く使用されているキャノーラ油は、ブラッシカ・ラパとヤセイカンランの交配種であるセイヨウアブラナ(Brassica napus)から作られる。

ブラッシカ・ラパとヤセイカンランは、そもそもどこからやってきたのか。100年以上前から、科学者たちはその原産地を探し求めてきた。今回、世界中から集められた何百というサンプルのDNAから、ようやくその答えが明らかになった。

カブやチンゲンサイ、ハクサイ、コマツナなどの原種であるブラッシカ・ラパはアフガニスタンとパキスタンの国境に近い山地が原産、そしてブロッコリーやカリフラワー、ケール、キャベツなどの原種であるヤセイカンランは地中海東部が原産だという。このブラッシカ・ラパに関する研究は、2021年4月30日付で学術誌『Molecular Biology and Evolution』に発表された。

原産地がわかったからには、すぐにでもその場所へ行って植物を採集し、保存すべきだと、研究者たちは主張する。今後、地球温暖化が加速すると、これらの野菜は暑さや干ばつ、病気など、かつてない危機に直面する可能性がある。原産地に生育する原種は、他とは比較にならないほど遺伝的に多様だ。これを利用して、気候変動に強い新たな品種を開発すれば、来るべき食糧難への備えとなるだろう。

米ニューヨーク大学の生物学者マイケル・プルガナン氏は、今回の研究には参加していないが、次のようにコメントしている。「この種の研究は非常に重要だと思っています。環境への適応に関係する遺伝子を探そうという、より賢明なアプローチの基礎となる研究です」

「植物界の犬」と言われる理由

アブラナ属の植物は「植物界の犬」と呼ばれるほど変種が多く、昔から生物学者や栽培農家を驚嘆させ、困惑させてきた。でんぷんが豊富な根菜、巨大な房を付けるブロッコリーにカリフラワー、アフリカから米国へ渡り、南部料理の定番となったコラードグリーン、そしてバラエティーに富んだアジアの青菜。ビタミンやその他の栄養を豊富に含むアブラナ属の野菜は世界中で売られていて、その額は年間140億ドル(約1兆5400億円)以上にもなる。

だが、その多様性こそが、原産地の特定を困難にしていた原因でもある。今回のブラッシカ・ラパに関する論文の著者で、米ニューヨーク植物園の植物学者アレックス・マカルベイ氏によると、飼い犬が野良犬化するように、栽培されているアブラナ属の植物も簡単に「フェンスを飛び越えて」野生に戻ってしまう。黄色い花を咲かせるアブラナ属の植物は、沿岸の草地や道端、畑など、世界のいたるところに生えている。食事のバラエティーが豊かになるとして、これを歓迎する畑の所有者もいる。

西ヨーロッパから東アジアにかけて、自分たちの土地こそアブラナ属の原産地だと考える人は多く、チャールズ・ダーウィンも、イングランドの海岸に自生するものがヤセイカンランの祖先ではないかと考えていた。

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