200社超がバーチャル総会実施 新技術で信頼性確保も
3月期決算企業の株主総会開催は6月末がピークでした。今年は新型コロナの影響で、オンラインによるバーチャル総会を導入する企業が昨年に続いて増えています。バーチャル開催では株主と会社側の良好なコミュニケーションや、投票などでの信頼性確保が課題となります。記録の改ざんが難しいブロックチェーン技術による投票システム導入など、バーチャル総会ならではの新しい試みも広がっています。
東京証券取引所によると、2021年3月期の定時株主総会を、会場の実出席のみで開催するのは全体の86%にあたる1421社。一方、バーチャル総会を予定する企業は232社(14%)で、前年実績の5.2%と比べ大きく増えています。このうち会場を設けない「バーチャルオンリー型」は0.3%で、大半は実出席とリモート参加を併用する「ハイブリッド型」になっています。
株主総会をオンラインだけで開けるようにする改正産業競争力強化法が6月に成立し、今後はバーチャルオンリー型が増えそうです。大手企業でも武田薬品工業やソフトバンクグループなどが6月の株主総会で、バーチャルだけで開催できるよう定款を変更しました。
株主総会の開催支援を手がける三菱UFJ信託銀行は、投資家向け広報(IR)支援のプロネクサスと共同で、ネットを通じて質問や議決権行使ができるバーチャル総会システムを開発しました。プロネクサスの定時株主総会で先行的に使い、次期総会シーズンからこのシステムを使った開催支援サービスを本格的に進める予定です。
このシステムは、総会のライブ配信やリモート参加者の「拍手」による意思表示も扱えます。バーチャル総会だけだと株主と企業側のやり取りが滞りがちになるといわれますが、同社などのシステムは株主総会のシーズン以外でも、株主と会社側が対話できる双方向のコミュニケーション機能を充実させているのが特徴です。
ソフトウエア開発のアステリアは、改ざんが困難なブロックチェーン技術を使った「出席型バーチャル株主総会ソリューション」を開発しました。議決権行使の投票の信頼性を確保したり、株主からの質問や動議の手続きにも対応したりします。明治安田生命保険は7月2日に開いた定時総代会(株主総会に相当)でアステリアのシステムを使いました。
アステリアの平野洋一郎社長は「バーチャル形式の株主総会を厳格に運営するためには、ブロックチェーンのような信頼性を確保する仕組みが不可欠になる」と予想。ブロックチェーンを使った信頼性の高い投票の仕組みを、株主総会以外の業務サービスにも展開する予定です。
平野洋一郎・アステリア社長「公的な投票に活用広がる」
ブロックチェーンを使った「出席型バーチャル株主総会ソリューション」を開発、6月26日の自社株主総会でも使用したアステリアの平野洋一郎社長に、株主総会へのブロックチェーン利用の狙いや、今後の普及の見通しなどを聞きました。
――株主総会へのブロックチェーン利用をどのような形で進めていますか。
「ブロックチェーンを使った株主総会用システムは2017年と18年に実証試験を行い、19年から株主総会本番での運用を始めました。19年の株主総会は会場で開催し、ブロックチェーンによる議決権行使は書面投票と併せて総会開催前に受け付けました。昨年からは、会場とバーチャルのハイブリッド開催となり、総会の開催中もブロックチェーンによる投票ができるようにしました」
「昨年は書面投票が全体の84%でしたが、今年は71%に低下し、ブロックチェーン投票は昨年の16%から今年は約30%に上昇しました。昨年と比べ2倍以上の株主にブロックチェーンで投票していただきました」
――昨年と今年とで、ブロックチェーン利用のやり方を見直した部分はありますか。
「昨年は、議決権行使と株主質問に伴う処理にブロックチェーンを使いましたが、今回からはバーチャルのみの株主総会で必須となる動議への対応ができるシステムにしました。これで株主総会で想定される議事のすべてのパターンに対応できます」
「動議の扱いは、株主総会の進行中に株主がテキストで送信してくる内容をブロックチェーン上に記録しておく仕組みです。株主総会で採用されうる『実質的動議』と『手続的動議』の2種類の動議に対応します。株主質問の内容と同様に、改ざんできない形で記録を残すことができます」
「また今回、ブロックチェーンのプラットフォームを変更しました。昨年は暗号資産のプラットフォームでもあるイーサリアムを使いましたが、今年はクオラム(Quorum)という企業向けシステムに変更しました。クオラムはイーサリアムをベースにしていますが、いわゆるマイニングと呼ばれる『余分な計算』を行わないように設定できるのが特徴の一つで、ブロックチェーンを動かすときの消費電力も少なくてすみます」
――議決権行使はどのような方法を使っているのですか。
「スマートコントラクトと呼ばれるブロックチェーン上で動くプログラムを使います。株主にはデジタルトークンというコインのようなものを議決権数と議案に応じた数だけ配っておき、議案ごとにコインを募金箱に入れるようなイメージで投票してもらいます」
「今回の株主総会では、取締役5人の選任議案を含む4議案があり、賛否を問う項目が8つありました。ある株主の議決権数が仮に1であれば8個のデジタルトークンが配分され、これで案件ごとに投票してもらいます。投票がトークンの持ち分の範囲内で正しく行われたか、あるいは、投票結果が改ざんされていないかをブロックチェーンの仕組みで保証することができます」
――ブロックチェーンのような複雑な技術を使わなくても、株主総会の投票や集計はできるという見方もあります。
「既存のデジタル技術によって投票・集計を行うことはもちろん可能です。ただ様々なデジタル関連技術がそうであるように、いつか想定していない事故が起こりえます。実際、海外の選挙で票集計作業の操作や、結果の改ざんなどの問題が出始めています。ブロックチェーンを使うと、投票の管理者に悪意があっても結果を改ざんできない仕組みが作れます。いずれ株主総会のような公的な投票にはブロックチェーンを使っていくべきだという流れになると思います」
――開発したシステムを、今後どう普及させますか。
「まずは株主総会向けのシステムを、企業向けサービスとして上場企業を中心に展開したいと思います。選挙が電子投票やネット投票で行わるようになれば、ブロックチェーン利用のニーズは大きいと思います。また、本式の選挙でなくとも、行政における住民投票とか、エンターテインメント分野でのタレントへの人気投票とか、投票行為を伴うものが色々とあります。こうした投票の集計方法や結果に公正性を担保できる仕組みとして、今回のシステムを発展させていきたいと思います」
――株主総会をバーチャル開催する場合、株主とのコミュニケーションなどで問題を感じることはありませんか。
「議長として株主に説明をする際、バーチャル開催の場合は、相手側の反応が見えにくい面があります。自分の説明に対して、うなずいてくれているのか、首をかしげているのか、リアル開催の場合は、そのような反応を見ながら、少し詳しく説明するとかフィードバックがかけられるのですが、バーチャル開催の場合は難しいですね」
「当社は今回の株主総会で定款を変更して、次回総会からは会場は一切設けず名実ともにバーチャル開催に切り替えることになります。新しい体制では、例えば質問をされた株主の方の反応が見えるようにする仕組みを取り入れるなど、株主総会の運営方法についてさらに工夫していきたいと思います」
(編集委員 吉川和輝)
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