森七菜、タレントパワー急上昇トップ 作る側にも興味
日経エンタテインメント!が、2008年から年1回発表している「タレントパワーランキング」。株式会社アーキテクトが3カ月に1度実施している、タレントの「認知度(顔と名前を知っている)」と「関心度(見たい・聴きたい・知りたい)」の調査を基に、2つのデータを掛け合わせて「タレントパワースコア」を算出、ランキング化したものだ。
1280組の著名人を対象に21年2月に行った調査で、前年からもっとも数値を伸ばしたのが、女優の森七菜だった。
2016年にデビュー後、新海誠監督の映画『天気の子』のヒロイン・天野陽菜の声や、行定勲や岩井俊二といった名だたる監督作品への出演を、次々とオーディションで射止めてきた森七菜。
20年はNHKの朝ドラ『エール』でヒロインの妹で気難しい文学女子・関内梅を好演。コンビニスイーツ開発と恋に奮闘した初主演ドラマ『この恋あたためますか』(以下『恋あた』)も評判に。みずみずしい存在感と確かな演技力などが評価され、21年2月に「エランドール賞」新人賞を受賞。同月、松村北斗とW主演した映画『ライアー×ライアー』が公開されるなど、快進撃が続く。
「『エール』の梅役は、今思い返しても難しかったです。物書きで気難しい妹という役で、自分を客観視することが求められつつも気持ちも動かさないと演じるのが難しく、バランスに悩みました。でも出演後は、街で『梅ちゃん』と呼ばれたりして、それまでと違う広がりを感じて。おじいちゃんから『梅ちゃんへ 詩を書いたので曲をつけてください』とお手紙をいただいたことも(笑)。
ここ最近のお仕事で印象深いのは、初主演作品の2つです。『ライアー×ライアー』は、たまたま中学の時、友達に借りたことがある作品でした。普段からマンガをよく読むわけじゃないのに、不思議とずっと覚えていて、お話をいただいた時は、何かご縁があるのかなと鳥肌が立ちました。
『恋あた』より前に撮影したので、初めて主演として臨んだ現場でした。お客さんはきっと女の子が多いだろうから、私が演じる湊に思いを寄せる男性2人を、どうかっこよく見せられるかを考えて。ラブコメは初めてだったので、その経験が後の『恋あた』にいい影響を与えたと思います。
マンガ原作でナレーションが多かったので、表情で大半を表現しなきゃいけない。かなり計算しながら演技をしたつもりですが、時おりバッと気持ちがあふれるシーンもあったので、そのギャップに戸惑って。根性でなんとか乗り越えました(笑)。
根性もそうですが、現場での在り方や演技の基礎の考え方、演じるうえで大切にしたいことは、映画『最初の晩餐』(19年)でお父さん役だった永瀬正敏さんに教えていただきました。お仕事を始めたばかりで、委縮してる私を見て『パパはね』って話しかけてくださった。
私のセリフが止まって慌てたときも、永瀬さんはそのまま演技を続けられた。そういえばカットがかかっていないとハッとして、勝手に気持ちを切らす愚かさを学びました。それ以来、常に演じることを止めないように心掛けてきたら、スタッフさんから『どんなことにも耐えられる』って褒められるようになりました(笑)」
泣いてしまった撮影初日
『恋あた』は、主演の重圧に加え、主人公である井上樹木の一途な恋心がつかめず苦心したという。
「お話をいただいた時、ちょうど『恋はつづくよどこまでも』が大ヒットしていたので、『その枠で、私が?』と驚きました。ドッキリかもと疑心暗鬼になるくらい(笑)。
それまでは主人公へ語りかけたりする役回りでしたが、主役は物語の中心となって、周りから影響を受けることが多いので、1から勉強しなきゃと。撮影前はラブコメやお仕事ドラマをたくさん見たりして。3カ月にわたって誰かを追いかける経験がなかったので、人を好きになって一途に思うってどんな気持ちなんだろうと、樹木とは最初、距離を感じましたね。
本番初日はいろんな重圧がどっと押し寄せて、なかなか思った通りの演技ができない自分にめちゃくちゃ落ち込んで、泣いてしまって……。そうしたら、監督から『樹木、これはあなたのドラマだからしゃんとしなさい』とカツを入れられた(笑)。そこから、気持ちの部分で負けないようにしました。
主演である私を1番長く見るカメラマンさんや他のスタッフさんに、面白いと思ってもらえないと、楽しいドラマにならないと思って。共演者の方々がアドリブを入れてくださったりもして、徐々に楽しめるようになりました。
以前は、映画のほうがマイペースに撮れると感じていたけど、今は映画もドラマも好きですね。
ドラマは毎週毎週、撮っては放送するので、気持ちが急きますが、そのぶん反響も早く、それをリアルタイムに返す楽しさがあるなって。周りの評価は気にするほうですね。それが直接自分の芝居への評価だとは思わないけど。実は以前(本誌の)『タレントパワーランキング』特集号を自分で買ったことがあって、『ここか……』と悔しい思いをしました(笑)。けど、作品で1番知れ渡ってほしいのは、私自身よりも、作品名と役名ですね」
制作側にも回ってみたい
音楽活動も好調だ。「オロナミンC」のCMでホフディランの96年の曲『スマイル』を明るく歌う姿は鮮烈で、2800万回再生されるヒットに。NTTドコモ「ahamo」など大型CMへの出演も続く。ただ、映像のはつらつとしたイメージと異なり、「お仕事ではよく落ち込みますね。1人の時間に自分を見つめ直したり、ただただ散歩したりしながら考えます」という。じっくり自分の内側と向き合う地に足の着いた19歳は、この先どんな道を歩むのだろう。
「『スマイル』という名曲を歌わせていただいて、この曲と私はどう進んでいくんだろうという不安は最初ありました。ただ、ちょうどステイホーム期間の頃で、聴いてくれる人がスマイルになれたらいいなと思い、素直な気持ちで歌いました。いつか、フェスとかでロックに『スマイル』をやってみたいです(笑)。
音楽番組に出るのはすごく緊張しますが、歌うことは好きです。お芝居と違い、役としての気持ちじゃなく自分を重ねて届けるから違う感覚がある。与えられた曲ではあるけど、曲の解釈、自分の経験をかみ砕いて歌に乗せられる。一緒に音楽のお仕事したい方とか、こんなメッセージを伝えたいとか、考えることもあって。音楽活動はこれからも続けたいですね。
『舞台は役者のもの』と聞くので、チャンスがあれば演劇もやってみたい。すべて見られているわけだから、そこまで追い詰められてみたいです(笑)。ただ、やりたい役というのは特にありません。以前は考えたこともあったけど、実際にもらえたら自分に酔いしれて満足してしまう気がして。
実は作る側にも興味があります。学生の時から、プライベートでCM風の動画を撮ったりしていて。今年のお正月には、お母さんとおじさんがスキヤキを囲んでおいしそうにビールを飲む動画を撮りました(笑)。身近な人にそれを見てもらうのが楽しいんです」
(ライター 橘川有子)
[日経エンタテインメント! 2021年7月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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