02年には営業支援の情報共有ツール「商売の達人」を開発。営業成績上位者の知見やノウハウを共有化している。「入社1年目から、アポ取りから値決めまで社員個人に任せている。普通の会社では有能な社員はノウハウを秘密にしがちだが、うちは各社員が実際の体験に基づく事例を積極的に情報共有している。若手もそれを見れば、すぐにビジネスに生かせる」という。

222カ月連続で赤字なし

同社の正社員は約300人。総合職に毎年10万円の「学び支援金」も支給している。「通常の賞与に加えると、勉強のために使わないので別枠で設けている。外部のスクールなどで学習し、資格を取得した場合はその分の手当を追加する」と語る。

この結果、同社には優秀な人材が次々と入り、収益体質も強固になった。「リーマン・ショック時には売り上げは半分になったが、黒字を維持した。現在まで222カ月連続で赤字になっていない」と井上社長は話す。19年度の連結売上高は467億円で、経常利益は31億9000万円。自己資本は243億円。「上場する必要はない。株主に振り回されるだけ」という。

井上社長は「オープンワークで高い評価を受けているなんて知らなかった」と笑う

古い体質の業界で、なぜ井上特殊鋼は優秀な若手人材に支持される商社に生まれ変わったのか。「私は自分が入社したい会社を作りたかった」と語る。井上社長は大阪市出身だが、親の勧めもあり、1人で自由を謳歌できると、慶応義塾高校(横浜市)に進学した。慶大経済学部に進んだが、大病を患って2年半を棒に振った。体力面で自信を失い、就職活動ができず、家業を継ぐことにした。

「うちは大阪でも有名な企業ではない。しかし、私は常にどうしたらいい会社になるか、それだけを考えている。顧客訪問もほとんどしない。私なんて行っても営業の邪魔になるだけ」と笑う。大学時代に多くの仲間が一流企業に入社する姿を見送った。しかし、今や母校の後輩も門をたたいてくれる会社になった。

(代慶達也)

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