新しい商品が旧来の商品群を駆逐するのがイノベーションだ。経済学者であるシュンペーターは110年前「イノベーションは担当者の変更が伴う」と看破した。ソニーは携帯型音楽プレイヤーにおいて先駆者だったが、そこで聴く音楽コンテンツを安く配信しおまけにしてしまったアップルのiPodに敗れた。ソニーは音楽コンテンツも収益源だったので、それを自ら安くすることができなかったからだ。そして担当者の変更が起きた。既に便利なところや儲かっているところでは、イノベーションは起きづらく、日本ではさらに「自分を生んでくれた親や先人を敬う」儒教的な価値観が邪魔をして、なかなか社内での新規事業が育たない。
そのため多くのイノベーションは便利な都会ではなくそこから遠く離れた場所「辺境」から生まれる。スーパーホームセンター カインズや作業用衣料・資材のワークマンを生んだベイシアは北関東で、古代中国の秦も西域の果てで生まれたのだ。
(第2章 創造 4節 イノベーションは辺境から 105ページ) 

「失敗の本質」と忖度(そんたく)文化

守屋淳氏

日本特有の組織・戦略の問題点について鋭く指摘する記述もみられます。第4章9節にある「失敗の本質」がそう。経営学者の野中郁次郎氏らの手になる同名タイトルの書籍が話題に上がります。1984年発行の同書は今もなお読み継がれるロングセラー。インパール作戦やミッドウェー海戦など太平洋戦争の旧日本軍の致命的な失敗の理由を分析している同書を紹介しながら、その根底に組織内で上層部の意向を忖度(そんたく)する心理的メカニズムがあったことを喝破しています。いわく「権力者や為政者の感情や気持ちこそ重要であり、それを忖度し、それに沿うように動け、と」(191ページ)。作戦の失敗が必然であったことを指摘し「この本を読んでいくと、『日本軍』失敗の本質というよりは、『日本組織』失敗の本質といった感じです」(193ページ)と断じてもいます。その理由を突き詰めると、不断に学ぶことを忘れ、過去の成功体験に慢心して従属している姿を強く戒める記述には思わず共感してしまいます。

1980年代の日本企業が「ジャパン・アズ・ナンバーワン」として海外でほめそやされた後、長期の低迷に陥っていった経緯にも重ね合わせて、勝ちパターンに慢心する姿勢を厳しく問いただしています。

野中郁次郎らによる『失敗の本質』は第二次世界大戦における日本軍の失敗の本質を、大失敗作戦ごとに探求し、共通する原因とそれらへの対策を提示した。原因の最大のものは「論理性でなく体面や人情での意思決定」「上司(東條英機)の意向の忖度」にあった。それらは江戸時代以降の儒教的教育の問題ともいえる。
ドラッカーはGM研究において「変化対応こそがマネジメント」と言い切ったが、日本軍だけでなく日本企業も1980年代の成功パターンから抜け出せず、同じ失敗を繰り返した。20年間「IT基本戦略」を進められなかった日本政府も同じ。失敗してもそれを認めず、失敗から学ぶことをしないからだ。そこから抜け出すには「外部の視点の活用」だけでなく、上司や先輩への忖度をやめ、過去の失敗にも冷徹な目を向ける決意が必要だ。そうでなければ、われわれは泥船とともに沈むしかないだろう。
(第4章 学習 9節 失敗の本質 209ページ)
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