事業も人も革新は辺境から 名著からひもとく経営論『オリエント』

洋の東西を問わず優れた著作や人物にスポットを当てた経営対談
洋の東西を問わず優れた著作や人物にスポットを当てた経営対談

今回紹介するのは『オリエント』。「東西の戦略史と現代経営論」という副題がつき、経験豊富な元経営コンサルタントと中国古典に精通した作家が国内外の名著や古典、著名な経営者の著作に触れながらあるべき経営論について語り尽くした対談集だ。取り上げるテーマは章別に「成長」「創造」「IT」「学習」「人材」「経営」と、経営を語る上でどれも欠かせない内容で、全6章17節で構成している。

取り上げられている人物は渋沢栄一や五代友厚といった近代日本の実業家に加えドラッカー、クリステンセンといった海外の経営学の泰斗、さらに「ユニクロ」を展開するファーストリテイリング、ダイキン工業、村田製作所、日本電産といった独自の経営を貫く名だたる日本企業の事例にも話題が及んでいる。対談をベースにしただけあって、内容は具体的かつ明快な記述になっている。文中にはキメ細やかな用語解説や巻末に索引をつけ、各節の末尾には1ページで収めた要約があり、頭を整理する助けになる。歴史に学び、現在、将来にわたる経営の姿について学ぶ格好の一冊となるだろう。

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三谷宏治氏

著者の一人、三谷宏治氏は1964年生まれ。東京大学理学部物理学科を卒業後、ボストン・コンサルティング・グループ、アクセンチュアで19年半、経営コンサルタントを務め、現在も大学で教鞭(きょうべん)をとる傍ら講演活動に力を入れています。主な著作に『経営戦略全史』などがあります。一方、作家の守屋淳氏は1965年生まれ、早稲田大学第一文学部卒。ベストセラーとなった『現代語訳 論語と算盤』の翻訳や『最高の戦略教科書 孫子』など中国古典に関する著作で知られています。

イノベーションは辺境から

本書の魅力の一つは、対談らしく話題が満載で飽きさせないところでしょう。日本国内の流通業界に言及があったと思いきや、その直後、中国の王朝の秦に話題が飛び火し、さらに明治維新を成し遂げ近代日本の礎を築いた薩摩・長州の人材に及ぶ。こうした話の数々を共通のテーマで語り合い議論を提示しているところにおもしろさがあります。

第2章の「イノベーションは辺境から」というタイトルの4節では、興味深い視点が提起されています。「新しい流通は北関東で生まれる」と小見出しを掲げた記述。ジョイフル本田やカインズ、ワークマン、ヤマダ電機など郊外の出店攻勢で成長を遂げた小売りチェーンを例に挙げ、その理由として、東京のような人口密集地ではなく、不便な土地だからこそ強い需要があったとの分析です。加えて群馬や茨城といった北関東は面状に広がり、集客効果も高いという持論を展開します。

話題はそのあと、中国を統一した王朝の秦に移り、もともとは西域の国で中央からは文化的にも遅れていた秦が、中央で登用されなかった優れた人材を受け入れて成長していく過程が話題になります。近代日本、明治維新の立役者となった人材が薩摩・長州など、当時の江戸や京といった政治経済の中心地から離れた辺境で多く輩出されたことに及びます。経営論を記す一般の教科書、専門書にはない縦横無尽に展開される話題の幅広さが、初学者の関心を思わず引き寄せます。この4節の末尾で著者はこう要約を記しています。

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