後継者をどうするか
本書には個別企業のユニークな取り組み事例についても触れています。特に人材育成に関してはそのユニークさが際立ちます。電子部品メーカー大手の村田製作所では、スマートフォン向けの電子部品で、主要取引先といわれる米アップルや韓国サムスン電子などとの商談で、その場で意思決定ができる人材を社内で育成しようとしています。空調メーカーで世界大手のダイキン工業もAI(人工知能)やあらゆるモノがインターネットにつながるIoTの専門人材を育成する専門の機関を設けて取り組んでいます。半導体装置メーカーのディスコは社内業務で自由にやりとりできる疑似通貨を設け、社員個人の業務の収支に使い、コスト意識を定着させているといいます。
こうした人材育成と並んで、経営者として一番頭の痛い問題が後継者をどう選び、どう育てるか。本書でも、武田薬品工業や日立製作所など世界的な大企業といわれる経営者の事例を引き合いに、そのキャリアに共通点があると指摘します。それは、子会社や海外法人などの傍流で成功を収めた経営者が選ばれていることです。本社にい続けていては分からない問題点も、外部からみるとよくわかる。その発想が根底にあるといえます。これもまた、「イノベーションは辺境から」に通じる見方になるのかもしれません。
ただいずれにせよ「強い社長の次は弱い」となりがち。これを乗り越えるために、本流から外れたところで次期後継者候補を育てる方法がある。弱小事業部や子会社・海外での経営経験がそれに当たるが、マイクロソフトの3代目CEOサティア・ナデラも、日立製作所を立て直した川村隆もそうだった。さらに外れて、社外の人材に頼るのであれば「社内のしがらみに囚われない」活躍も期待できるだろう。それでもし血縁でリレーをするのであれば、万人を納得させるためにも、ジャパネットたかたで行われたような親子対決が必要かも。本社を2つに分け、親と子のどちらの経営力が上か競うのだ。
(第6章 経営 17節 後継者育成の覚悟 334ページ)
◆編集者のひとこと 日本経済新聞出版・永野裕章
この企画が始まったのは、西洋で発展した経営戦略論を専門にしている三谷宏治氏と、『孫子』など中国古典に精通している守屋淳氏が、「西洋と東洋の戦略論」について語り合えば、興味深い対談になるのではというのがきっかけです。
「日経ビジネス」で連載が始まり、多くの方から「戦略・組織論が歴史から学べる点」に好評の声をいただき、このたび書籍化されました。
『論語』やドラッカーなどの古典から、Googleやユニクロといった企業、元寇や日露戦争まで、古今東西のテーマに「戦略」という視点から論じられており、ビジネスに活きる教養が身につく内容となっています。
戦略や歴史、古典、偉人などが好きなビジネスパーソンには、ぜひとも読んでいただきたい1冊です。