さらに、竜人は謎に包まれたデニソワ人であるという可能性もある。デニソワ人は、正式な種としては認められていないが、数万年にわたりアジアに居住していた可能性が高く、アジアの化石の多くが属するのではないかと言われるグループだ。しかし、わずかな化石の痕跡しか見つかっていないため、遺伝子による確認が必要とされている。

19年、科学者たちはチベット高原でデニソワ人と見られる顎の骨の一部を発見したと発表した。この骨は、グループ名の由来となったデニソワ洞窟以外で発見された、最初のデニソワ人の化石とされている。

今回提案された系統樹によると、竜人は「夏河(かが)の下顎」と呼ばれるこのチベットの化石に最も近い関係にあるという。「両者はおそらく同じ種に属するでしょう」とニー氏は言う。ただし、同氏はこの顎を(ひいては竜人を)デニソワ人に分類することについてはちゅうちょしている。

一方、デニソワ人を最初に記載したチームの一員であるビオラ氏は、夏河の下顎はデニソワ人と考えることが最も論理的であると言う。しかし、仮に竜人がデニソワ人であったとしても、今回の分析の結果、ハルビンの頭骨と夏河の下顎を含む系統樹の枝は、ネアンデルタール人とは別のものになると指摘する。

そうだとすると、これまでのデニソワ人の遺伝学的研究で示されたストーリーと矛盾することになる。先行研究では、ネアンデルタール人とデニソワ人の共通祖先は、約60万年前にホモ・サピエンスの前身から分かれたことが示唆されている。その後2つのグループに分かれ、ネアンデルタール人はヨーロッパや中東に広がり、デニソワ人はアジアに移動したとされる。

これらすべてのグループ同士には「密接な関係があり、解決するのは難しいでしょう」。ドイツ、エバーハルト・カール大学テュービンゲンの古人類学者、カテリーナ・ハーヴァティ氏はメールでそう語る。「おそらくこれは、もっと多くの証拠が出てきたときに、より詳細に検討する必要があると思います」。なお、氏は今回の研究には参加していない。

今後、さらなる証拠が出てくるかもしれない。今回の論文に関わったチームは、竜人の遺伝子分析の可能性を探っていると二ー氏は言う。しかし、それには化石のサンプルを少量、破壊する必要があるため、作業は慎重に進められている。

(文 MAYA WEI-HAAS、訳 桜木敬子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年7月1日付]

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