蒼太 えっと、環境政策ゼミの講座開催のリーダーに立候補することですね。これ以外は、自分1人で頑張れることですけど、ゼミの活動は他の学生の希望もあります。そもそもリーダーに選んでもらえるかも実際にうまく講座ができるかもわかりません。でもリーダーになれば、勉強やゼミ運営などをやらざるを得ない状況に自分を追い込めるかなと。
安藤先生 そうですね。人間は誘惑に負けやすいものです。当初はやる気であったとしても、少しずつ手を抜いてしまうかもしれません。そこで大事になるのが、始めたら辞められない状況に自分を持っていくことであり、そのための手段がコミットメントです。リーダーになるというのは、勉強や運営にコミットすることになりますね。
入りたい会社、どうやって見つける?
安藤先生 ここまで理想のガクチカ(学生時代に力を入れたこと)や自己PRについて考えてきたわけですが、志望動機についてはどうですか?
蒼太 理想の志望動機についても、業界や企業のことをもう少し調べながら書いてみました。
私が貴社を志望した理由は3つあります。
1つ目は、貴社で働いている大学の先輩から話を聞いて、リノベーション事業に魅力を感じたからです。特に先輩社員から「家は、お客様にとって人生で最大の買い物であり、正解がない難しい仕事ではあるが、お客様に認められた時の達成感は大きい」という話を聞いたのが印象的でした。私の幼少期に、祖父の家を取り壊すことがあったのですが、その際に泣いている父の姿を思い出しました。そしてあの時に、リノベーションという選択肢はなかったのか、家族の思い出になる部分を残して次の家を建てられなかったのかと考えました。そこで大学ではリノベーションの研究室に入りました。様々な選択肢を提示できるリノベーション事業は、お客様の人生に深く関わるという責任とともに、大きなやりがいがあり、生涯の仕事にしたいと考えています。
2つ目は、貴社のDパークタウン事業の「人と共に生きる街」という理念に共感したからです。リノベーション事業というと1つの住居を改装するというイメージが強いですが、Dパークタウンは、空き家の多い地域を1つの街として捉え、事業を展開している点に驚きました。空き家の増加という社会問題への解決策の提示だけでなく、人々の新しいライフスタイルの提案をしている点に共感するとともに、自分も社員の一員となって街をつくっていきたいと考えています。
3つ目は、貴社のチームワークを大切にした風通しの良い社風に惹かれました。先輩社員から、仕事をする上では他部署との調整もあるが、お客様のためにより良い商品をつくるという目標は皆同じで、妥協せずに話し合うと聞きました。また、貴社は社長へのプレゼンの機会もあるという風通しの良い社風です。私自身も野球を小学生から続けており、皆が目標のために遠慮せずに話し合えるチームが強いことを知っています。そういった社風のある貴社であれば、私自身もチームの一員となって貢献できるはずです。
ただ、改めて考えてみると、少し悩んでしまって……。
安藤先生 悩んだというのは、どんなことですか?
蒼太 「そもそも僕はDリノベーションが第1志望なのかな?」という根本的な疑問が出てきてしまったんです。
今回ESを書くにあたって、安藤先生から具体的に企業名を想定して書いてみようと言われたので、とりあえず先輩が働いているDリノベーションを身近な例として思いついたわけです。しかし僕は、住宅や不動産業界が本当に第1志望なのか、もっと向いた職業があるのでは……と考えるとわからなくなってきたんですよね。
安藤先生 そうでしたか。実際にESを書いてみることを通じて、就活のルールを知ることが目的で始めた取り組みですので、志望する業界や企業についてはこれから考えていきましょう。
蒼太 こんなことを聞いていいのかわかりませんが、そもそも自分のやりたいことや、入りたい会社を見つけるにはどうしたらいいんでしょうか?
安藤先生 もしかして、南さんは「やりたいこと」を仕事にするって考えていませんか?
蒼太 え、違うんですか? 例えばお笑い芸人は、自分がやりたいからその仕事をしているわけですよね。自分がタレントになろうとは思っていませんが、そういう風に自分がやりたいと思うことがあって、そこから志望業界などを探すんじゃないんですか?
安藤先生 なるほど。自分のやりたいことを仕事にして、それで生活している人のことを考えているわけですね。そして志望動機を考えている中で、そもそも自分は何をやりたいのかで迷ってしまったと。
蒼太 もちろん卒業したら就職して、稼いだお金で暮らしていきたいと思います。でもお金がたくさんもらえることよりも、まずは自分がやりたいと思える仕事をやるのが幸せなことかなって。よく天職って言いますよね。それに出合うためにやるのが就活かなと。
安藤先生 わかりました。まず南さんに必要なのは、自分を知ることです。自分の志望業界・企業を絞り込んでいくために、今から「3つの円」を描いて考えていきましょう。
(つづく)
日本大学経済学部教授。2004年東京大学博士(経済学)。政策研究大学院大学助教授、日本大学大学院総合科学研究科准教授などを経て、18年より現職。専門は契約理論、労働経済学、法と経済学。厚生労働省の労働政策審議会労働条件分科会で公益代表委員などを務める。著書に「これだけは知っておきたい 働き方の教科書」(ちくま新書)など。