2021/9/12

エンジンを回すほどに盛り上がる

本国試乗で得た「速いという実感が湧かない」という走りの印象は、梅雨の日本の路上でも変わらなかった。まずもって、べしゃべしゃにぬれた路面でさえしっかりとトラクションがかかり、後輪がやすやすとスリップダウンすることがない。今日びのミドシップは、例えば42:58などと、後ろにエンジンを積む割には前軸寄りな重量配分のモデルも多い。そんななかにあって、C8の車検証上の重量配分は39:61。38:62の「911カレラ」ほどではないにせよ、荷重がリア寄りであることも奏功しているのだろう。

このどっしり体形に、高回転に向かうに従ってぐんぐん盛り上がる自然吸気らしいパワーの“乗り”が重なり、回すほどに勢いを増していくのが「コルベットならではの速さ」というわけだ。下からドーンとトルクが湧き上がり、無慈悲な加速がフラットに続く今日びのターボユニットに慣らされた身は、この精緻さからくる安心感を、“遅さ”と曲解してしまうのだ。

精緻さからくる安心感という点でいえば、この手のクルマが苦手とする雨中でのコーナリングも然りだ。前述の通り、真っすぐで据わりがいいC8は、ハンドルを切り始めたごくわずかなところからの操舵ゲインの立ち上がりが穏やかで、車体の微細なヨーコントロールが苦にならない。そこからは切り込むほどにグイグイとゲインを高めていくのだが、その過渡領域の“つながり”もとても滑らかで、期待通りの動きを容易に引き出せる。直進と旋回の動きが境目なく丁寧に連続しているうえに、普通のスピードでも荷重変化をきちんと伝えてくるから、ドライバーはクルマを御することに自信を持ち続けられるわけだ。

サスペンションは前後ともにダブルウイッシュボーン式。スプリングは「コルベット」伝統の横置きコンポジットリーフから、コイルに変更された。
ドライブモードセレクターには「スポーツ」「トラック」など4種類の走行モードが用意されており、また、これとは別に「Myモード」「Zモード」という2つのカスタマイズモードを記録できる。
「Zモード」はステアリングホイールの専用スイッチにより、ワンタッチで呼び出すことが可能だ。
日本仕様の「コルベット」には「Z51パフォーマンスパッケージ」が採用されており、ブレンボ製の高性能ブレーキやパフォーマンスエキゾースト、電子制御LSD、ミシュランのスポーツタイヤなどが標準装備される。

この内容でこの値段はバーゲンプライス

走り始めれば、延々“時速55マイル”を維持し続けることも苦にならないクルマであることは、昨年の試乗で確認していた。が、日本の路上で、しかもこの悪天候下で乗ってみても、これほどゆっくりと走ることが楽しく、上質に、饒舌(じょうぜつ)に対話できるクルマだとは想像できなかった。これと似たような感じのミドシップスポーツがあったよなぁと振り返れば、思い浮かぶのはNA1の「ホンダNSX」や986後期の「ポルシェ・ボクスター」、V8を搭載した初代「アウディR8」。いずれも個人的にはいいクルマの筆頭に挙がる銘柄だ。

今回試乗した上級グレードの3LTは1400万円。対して基本グレードの「2LT」は220万円安い1180万円だ。ただし、この両グレードでは機能的差異は無に等しく、内外装のカーボンのお化粧やトリム類、シートのしつらえなどで差がつけられている。走行機能面での唯一最大の差はノーズリフターだが、もしどうしても必要とあらば、社外品という選択肢も期待できるだろう。ちなみに、ボタンひとつでルーフが開閉できるコンバーチブルは1550万円だが、代々のコルベットと同様、C8はクーペでも屋根はリムーバブル式で、リアトランクにパネルをしまうことができる。

今回の試乗ではわからないことも幾つかある。走らせた距離と環境を思えば、「想像してたほど伸びないかも」と感じた燃費も再検証が必要だ。が、昔からアメ車と「スズキ・ジムニー」にはバイアスがかかってしまう自分を努めて落ち着かせてみても、C8のコスパは2007年に「日産GT-R」が提示した777万円以来となる、スポーツカーカテゴリーに落ちた隕石(いんせき)だと言い切ってしまってよさそうだ。

(文=渡辺敏史/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)

始動時の“ひと吠え”を除くと、「LT2」の音は非常に紳士的。アクセルを深く踏み込んだり、走行モードをアグレッシブなものに変えたりすれば、大排気量V8ならではの低く乾いたサウンドを楽しめる。
「3LT」と「コンバーチブル」には、段差などでフロントを打たないようにするための、フロントリフトハイトアジャスターが装備される。
歴代モデルと同じく、C8のルーフは「クーペ」でも脱着可能で、リアトランクにしまうことができる。写真は「3LT」のカーボン製ルーフ。
新型「コルベット」の価格は1180~1550万円。日欧のライバルと比べたらバーゲンプライスといえるだろう。
■テスト車のデータ
シボレー・コルベット クーペ3LT
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4630×1940×1220mm
ホイールベース:2725mm
車重:1670kg
駆動方式:MR
エンジン:6.2リッターV8 OHV 16バルブ
トランスミッション:8段AT
最高出力:502PS(369kW)/6450rpm
最大トルク:637N・m(65.0kgf・m)/5150rpm
タイヤ:(前)245/35ZR19 89Y/(後)305/30ZR20 99Y(ミシュラン・パイロットスポーツ4 S)
燃費:シティー=15mpg(約6.4km/リッター)、ハイウェイ=27mpg(約11.5km/リッター)(米国EPA値)
価格:1400万円/テスト車=1407万7000円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション フロアマット(4万6200円)/ETC 2.0車載器(3万0800円)

テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:2631km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5)/高速道路(5)/山岳路(0)
テスト距離:242.5km
使用燃料:40.5リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.0km/リッター(満タン法)/6.1km/リッター(車載燃費計計測値)

[webCG 2021年7月8日の記事を再構成]