「アタック25」の名調子に学ぶ 仕切り役のトーク術梶原しげるの「しゃべりテク」

かつてはフランス旅行が優勝賞品だった(写真はイメージ) =PIXTA
かつてはフランス旅行が優勝賞品だった(写真はイメージ) =PIXTA

名司会者には独特の口調があり、クイズ番組「パネルクイズ アタック25」(テレビ朝日系)の俳優・児玉清さんもそうだった。惜しまれながら番組が終わるのを前に、数々の名調子を振り返りつつ、様々な議論の場を仕切る進行役にふさわしい語り口を考えてみたい。勝負どころでの「アタックチャンス」が有名だが、実はほかにも巧みな仕切りトークがたくさんあった。そして、名調子の裏には児玉さん一流の目配りが隠されていた。

私もクイズ番組で進行役を務めたことがあるが、なかなかに難しい仕事だ。「アタック25」のような早押しクイズ形式の場合、スピーディーなゲーム運びを邪魔してはいけないから、言葉をはさむ頻度は少なめになる。しかし、「はい、次の問題」ばかりでは単調になりすぎる。ゲームの流れを止めないように気を配りながら、視聴者に状況を解説し、解答者の持ち味も引き出す。結構な離れ業だ。

この難しい役回りを、1975年4月の放送スタート以来、亡くなった2011年まで約36年にわたって務めたのが名俳優として知られた児玉さんだ。数々の視聴者参加クイズ番組が姿を消していく中、「アタック25」だけが生き残ったのは、児玉さんの巧みな司会術のおかげだったと言っても、そう的外れではないだろう。

番組の中で児玉さんが最も多く発した言葉は「正解」だと思われる。だが、この短い言葉ですら、児玉さんにかかると、ワンパターンではなくなった。「お見事」「結構」「その通り」「よくご存じだった」などのバリエーションを、状況に応じてしなやかに使い分けていた。正解をたたえると同時に、解答者のモチベーションを高めることも忘れていない。

「お見事」のような短い言葉でも、しっかり抑揚をつけて、「お」に気持ちを込めた。重要な局面では「そのとおーり」と伸ばして、正解者の高揚を誘った。ベテラン俳優ならではの「声の演技」といえる。短い言葉は抑揚が平坦になりがちだ。「こんにちは」のようなあいさつも、抑揚が乏しいとぶっきらぼうに聞こえる。短い言葉でも声を張った児玉さんには声の手抜きがなかった。

「アタック25」では解答ボタンを押したタイミングが最も早かった1人だけが解答権を得る。結果的にランプがともった人だけを見ていると、早押しの競い合いが見えにくくなってしまう。児玉さんはこの「押し負け」にもきちんと目配り。「白(のシートに座っている解答者)も押されていたが、赤のほうが一瞬、早かった」と、司会者席から間近に見ているからこそ分かるタッチの差を、自らの言葉で補った。押し勝った者だけを単純にフォローするのではなく、「敗者」の健闘もドラマに組み込んで、戦いを立体的に見せた。

知性や品格を感じさせた点でも、児玉さんは異色のクイズ番組司会者だった。もともと学習院大学文学部ドイツ文学科を卒業しているのに加え、大の読書家。膨大な読書に裏打ちされた教養は時に「アタック25」の司会トークにもあふれ出た。たとえば、小説『星の王子さま』で有名な作家サン・テグジュペリの著書で、香水の名前にも採られた作品を尋ねた設問では、「夜間飛行」という正解が出た直後、「正解、ヴォル・ド・ニュイ(Vol de nuit)」と、フランス語原題を即座に言い添えた。

フランス語原題の記述は、おそらく台本にはなかっただろう。文学を好んだ児玉さんのアドリブだったと思われる。知識をひけらかす振る舞いは、下品に映ることがあるが、児玉さんの場合はごく自然にあふれ出る感じがすてきだった。読書を通じて、体にしみ込んだ、借り物ではない教養には嫌みがなかった。こういったアドリブ的な反応は文学の設問で多くみられ、児玉さんの個人的な趣味がのぞくところも味わい深かった。

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