水上スポーツのSUP(サップ)をご存じだろうか。Stand Up Paddle-board(スタンドアップ・パドルボード)の略で、サーフボードと同程度の大きさのボードに立って乗りパドルでこぐスポーツだ。余暇のアクティビティーとしてのイメージが強いが、競技としても少しずつ広がりを見せている。競技運営団体の一般社団法人「サップリーグジャパン」理事の大森正也さん(27)は、大学生への普及を通じて「海の箱根駅伝を作りたい」という夢に向かって汗をかいている。
6月中旬の平日。ホームグラウンドの1つである相模川の湘南マリーナ(神奈川県平塚市)周辺では、午前7時すぎから大学生の選手たちが朝日を浴びながら練習に精を出していた。「誰でも始められるし1限の授業にも間に合うし、何より『朝活』として早起きすることで生活習慣や世界が変わりますよ」と笑う。
せっかくの機会だからと、勢い勇んで挑戦してみる。何とかボードの上で立てて幸いにして溺れずに済んだが、なかなか前に進まずバランスを保つために膝から下が終始ブルブルと震えたままだった。人気の理由とされる「体幹を鍛えることができる」という口コミが、すっと理解できた。一方で、水面とほぼ同じ高さに立って川面の全体を見渡す感覚や景色そのものが非日常的で新鮮に思えた。
幼い頃から海は身近な存在だった
大森さんは相模川を挟んで平塚市の東隣にある茅ケ崎市で生まれ育ち、今も同市に住む生粋の「湘南ボーイ」。夏の海水浴から冬場の散歩やデートまで、幼い頃から当然のように海はいつもすぐそばにあった。しかし小中でサッカーに明け暮れ高校時代もブレイクダンスに夢中だった彼にとって、マリンスポーツはずっと無縁の存在だった。
転機は早稲田大学創造理工学部への進学。初めて地元を飛び出したことをきっかけに「湘南出身としてのアイデンティティーを求めたくなった」といい、まず1年生の時にサーフィンを始めた。愛好者が同級生に1人か2人程度で、決してメジャーではなかった点も背中を押した。そうしてサーフィンにのめり込んでいるうち、SUPが目に入った。
大学3年生になった2015年、高校・大学の先輩がSUPを始めたと聞いて誘われるがままにさっそくやってみた。キャンパスとの往復を中心とする日常の繰り返しで「自分の世界が狭くなっていた」中に、新鮮な風が吹き込んだ。何より視界がボートやカヌーと違うことから「地球ってこんなに広いんだと純粋に思ったし、自分がこぐ力で世界を広げていけるのかなと考えるとわくわくした」。没頭するのに、時間はかからなかった。